その後僕は雷さんの部屋を出て、機嫌良く自分の部屋へと向かっていた。
今日はこの後どうしよう。えっとサミーさんにおせっかいLINEして、テディから来てる着信に折り返して、あっ雷さんから『さっきはサンキュ』と非常にシンプルなお礼ライン来てるからそれに返信もしなきゃ。
あとそんで亜蓮さんとこも訪問して…忙しいや。
なんて考えていたら。
「!」
着信が鳴る。事務所の社長からだった。
「ハイ、もしもし!」
「あー君、ちょっと君らのマンション付近にたまたま来たんでね。近くの喫茶店でちょっとコーヒーでもどう?仕事の調子聞かせてよ」
突然僕は寮母ぶりをチェックされることとなった。
***
近くの喫茶店に現れた社長。遠目に見てもスゲー脚長い。顔ちっさ。なんなの?
コーヒーをしばきつつ、僕らは話した。
「その後どう?寮母係の方は」
「あっえーと、順調かなと…!皆さんと仲良く慣れてきて、家事とか雑用をちょっとずつやらせて貰えるようになってきたとこです!」
「…ふうん?例えば?」
「え!えっとお。亜蓮さんと雷さんには食事の作り置き、サミーさんにはお弁当作ることになっています!テディ、くんはその、夜寝られないときに寝れるまで相手をしています…!」
テディについては嘘は言っていない…!
「へえ?彼らが?…君なかなかやるねえ。初めてだ」
驚いたあとふむ…と腕を組んで考え込んだ社長。
ヒソヒソと声を落として僕に言った。
「あー君、分かってると思うけど。万が一にもウチのアイドルと恋愛関係にもなろうというなら即クビだからね。週刊誌に撮られるとね、多方面に迷惑がかかるし損害だって出る」
ウグ…!
一瞬ギラと社長の鋭い眼差しが僕を捉えた。だめだ動揺するな僕…!
「もっもちろん…!わきまえてますよう」
テディにキスされたこととかバレたら即クビだろう、頭の中で赤信号が点滅する。
僕は懸命に猫撫で声で誤魔化した。
…僕はまだまだ彼らのことを知らない。孤独や闇を抱えていそうな彼らのそばに、まだいたかった。
***
そんじゃあねと高級外車で去っていった社長。
ふう…助かった…そう思ってマンションに入ってったところで本当にたまたまバッタリ亜蓮さんに遭遇した。いや玄関のエントランス部分に寄りかかって僕が社長の車から出てくるところを観察していたっぽかった。
「あ、亜蓮さん!」
ドキッとした。久しぶりな気がする。
「社長来てんなあと思ったら藍か。…何、社長とデキてんの?」
「え!?いやめっそうもない!?」
疑うわれる様な視線にドギマギする。
「寮母の仕事どう?慣れた?みたいな話してただけですよっ!」
「ふうん?」
「あとアイドルとは恋愛禁止だからねーって釘刺されてきたんですよ!」
「へえうぜえな」
亜蓮さんもまあまあ口が悪い。
そして自然に僕の腕を引いて部屋に連れ込んでいく…。この強引さがやっぱり嫌いじゃない。いや、好きなくらいだ。
ドアを開けて部屋に入る。今日は亜蓮さんとこれからどう過ごしたら良いんだろう、だなんて考える間もなく僕は壁に押し付けられていきなりキスされた。
「!」
避けようとしても力強いその手は僕を決して離してくれない。顎を押さえつけられて舌が入り込むー…。
存分に堪能したあと、亜蓮さんは唇を離した。力が入らない。鼓動が鳴って仕方なかった。
「…アイドルって恋愛禁止じゃあないんですか…」
「さあ?知らないね」
「バレたらクビですよ?…僕がね」
「バレる様なヘマしないさ」
見上げた僕を捕食者の瞳が見下ろす。もう一度亜蓮さんは僕に奪うようなキスをした。押さえつけられてはいないのに。僕は亜蓮さんがやっぱり内心好きだったんだってその時気づいてしまった。多分初めて会った時からずっと。
その日はそれから亜蓮さんとずっと過ごした。ベッドにあからさまに誘われたけど、それはさすがに遠慮した。
「どうして断るの?」
「…恋愛禁止だから」
「藍ってプライド高いんだ」
「そんなんじゃないです」
一線を越えたらきっとバレてしまう。社長にも皆にも。そしたらここにはいられない。
その日の夜。僕は初めてテディにもサミーさんにも雷さんにも誰にも連絡を返せなかった。
「俺だけを見てろ」
僕の方を抱く亜蓮さんがそう言うから。
携帯がメッセージを大量に受信していくのを、ただ眺めていた。
『藍、今何してるの?』
『寮母さん、今日全然おせっかいLINE来ないんですけど』
『藍、レシピで聞きてーことあんだけど』
『寮母さん。なんでもいーから送ってよ』
『電話出てよ。クマくん心配じゃないの?』
『無視?つめてーな』
『寮母さん。疲れて寝ちゃった?明日は連絡くれよな?』
『藍、寂しい』
藍、藍、藍!と皆がその手を伸ばしていた。
続く

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