「ちょっとそこの椅子に座って待っててくんない?すぐ戻るから」
「了解です!」
背もたれ付きの椅子に促されて座った。何だろう?と思いつつ待ってると、ちょっとして雷さんはガムテープ片手に戻ってきた。そしてそのまま僕の方に近づいて、く…る…?
ん…?んんん…?イヤな予感!
「悪く思うなよ」
「!?え、ちょ、何!!!!?」
暴れる僕を押さえつけ、あっという間に僕の両手をガムテープでグルグルに巻いたのだ!
無惨に仕上がってしまった僕の両腕!!!またも監禁の予感にサ〜ッとなる!
「な、な、何コレ!!!?テディと言い何なんです!!!?グループで流行ってんですか!!!?」
「はあ?テディも?あいつのことは知らねーが。俺はなあ、部屋をいじくりまわして欲しくないんだよ。寮母だか何だかの仕事はやったってことにしとけ、な」
「え?あ…そゆこと…?」
はあああ良かったあああ〜。良かった〜!!!
ヘナヘナと力が抜けた。
「あ、でも料理はやらなくて良かったんですか?僕」
「料理は自分でやるから良い。オマエは必要ない」
でも必要ないってはっきり言われて内心しょんぼり。そこは寮母を必要として欲しい感じ…!!
「そこで見てろ」
そう言って雷さんはキッチンに立った。
***
冷蔵庫からアレコレ取り出して行く。何とか見える位置に僕もいるのでどうにかこうにか見学させて頂く。
「おお!包丁さばき上手いですねえ」
「……」
おしゃべりはしてくれないけどね…!
色白の手がトマトだのピーマンだのを切っていく。しかし美男て料理してるだけで絵になるなあズルいなあ。
そうしばらく見ていた僕だったけど。
じきにアレコレ気になり出してきた。
え、あっその野菜の茹で汁捨てちゃうの!?せっかくの栄養豊富な汁が!!!
あと食材いちいち加熱し過ぎ…そんなんじゃビタミン壊れちゃうよもったいな!!!
そう、元貧乏フリーターとしてひとつの食材からいかに栄養を補給するかを研究した経験ある身からすると、雷さんのやり方はもったいない点が多過ぎた。
それに味付けも結構似たり寄ったりで、あれだと絶対週の途中で飽きてるはずだ。
料理はやる割にたぶんあまり得意ではなさそうな雷さん。テディの言った通り食事管理には難儀していると見える…!
「ら、雷さん…!僕お手伝いしますよ!?」
雷さんは冷たい一瞥をチラッと寄越した後すぐに視線を逸らした。
「俺に関わるな」
ウグ…!でも負けるな僕!
「よ、良かったら味付けの幅増やしません!?それなら飽きずに食べれますよ!あと少ない品目で栄養価上がる食事作りならやれます!カロリー自体はあんまり取りたくないでしょ!?」
「!」
ピタ、と手を止めた雷さん。しばし間が空いて包丁を置き彼は言った。
「要はヘタクソって言いてえのか」
「え!?いや、まさか!?」
「……。どうせ俺は…」
一瞬目を逸らした雷さんが傷ついた顔に見えてドキッとした。
「あーっと!!男の人で料理やろうとする人自体あんまりいないので自分でやっててすごいと思いますよ僕は!!!」
食い気味に滑り込んだ。
「違うんです批判したかったんじゃないんです!!ただこう、ほんのちょっとだけ惜しいなあって…!」
雷さんの冷たげな瞳がジッと僕を見つめている。
「その、アイドルやりながら食事管理も自分でやろうなんて実際中々出来ることじゃないですよ、ホント!しかもこう随分ストイックに歌もダンスも練習してるって他のメンバーから聞きましたし!
そんな雷さんの手伝いが出来たら、そう思っただけなんです!そしたら雷さん、もっと練習に集中出来るでしょ!?」
何か興奮してはあはあと若干息の荒くなってしまった僕。やばいちょっと冷静になると恥ずかしい。
ど、どう…?雷さん…?
「……。
………あっそ」
雷さんは手を洗ってキッチンを出て行った。
「あ、あのどちらへ…!?」
「…ハサミ取ってくる。ガムテープ」
そしてアッシュ色の髪をちょこっと掻いて、廊下を歩いていった。
どうやら手の拘束を解いてくれる気になったらしい。
***
ガムテープ呪縛から逃れ、僕は一緒にキッチンに立った。
「んで?どうするんだよ」
「あっえーとですね、まずは味付けなんですけど…」
調理はあくまで自分でやりたいという雷さんに、横からコツを伝えた。
雷さんはそれを自らメモに書いてキッチンの壁に貼っていった。ま、真面目〜!ちょっと感動してしまった。
「雷さんてその、きっちりさんですねえ。これは覚えるのスグですね」
「……」
雷さんは何も言わずこめかみをカリカリと掻いた。
そんなこんなで即席クッキング教室は終わった。
「あ、そういえばゴミ捨てとか言ってもらえれば僕やりま…」
あっやば、そういうのいらねって前言われたんだった!また地雷を踏んでしまうか!?
「ゴミ捨ては自分でやるから別にいーけど。…今後は洗濯物でも畳んどいて。洗濯機あっちの部屋だから」
ンンン!?
「え、そんなことして良いんですか?」
「ああ」
「今後ってまたお部屋きても良いんですか?」
「…いーよ」
「やった〜!」
「るせえ!ほ、本当は嫌なんだからな!」
またプイッとしてどっか行った。
そのツレない背中を苦笑しながら見送る。
野良猫か…?
だけど僕は手応えをかすかに感じていた。何か出入りして良くなるっぽいし!これは前進である!やっほう!
『絶対に懐かない野良猫』を攻略する様な楽しさが芽生えつつあった。
よ〜し雷さんとも仲良しになるぞ!そうやる気を出した僕。
その一方。そういえばとふとキッチンで『…どうせ俺は…』とさっき雷さんがそう言った時の表情とセリフを僕は思い出していた。
どうせって何だ?案外自分に自信持てない系?あのツンツン具合ももしかしてそのせい…?
僕の勘違いかもしれないけど、雷さんのことも今後ちゃんと色々知れると良いなあ。
続く

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