サミーさんと別れてテディと合流した。部屋へ戻る道すがら、ペトッとテディがくっついてきながら聞いてきた。
「サミーと何話してきたの?」
「内緒」
「おせっかいがどうとか聞こえた」
「しっかり聞いてるじゃん」
「それ以外あんまり聞こえなかった」
ムスッとしている。
「皆と何話してるかは内緒だよ。皆のプライベートぺちゃくちゃ喋っちゃだめじゃない」
「俺は特別じゃん!」
「そこは平等です」
くううっと唇を噛んで不満を露わにしたテディ。
それからも何とか僕からアレコレ聞き出そうと纏わりついてきたんで、ちょうど僕らの部屋の近くにあった自販機でイチゴジュース買って黙らせた。
***
「さ、藍!ここ来て」
お風呂入ってもう寝るって時、ポスポスと機嫌良くベッドを叩いてきたテディ。
「はいはい、心得てますよお」
テディの隣に潜り込む。ギュッと抱きしめてきた。この大きな身体に包まれる様に抱きしめられるのももう慣れてきた。
「…でさあ、サミーと何話してたの?」
「またその話?もう寝ようよお」
「…藍が他の誰かと秘密を共有するのが心底イヤだ」
「そんな大層なもんじゃないってばあ」
なんて軽く返していたけど僕は内心ドキドキしていた。こんなに嫉妬心剥き出しなのって歳下の男の子ならではなんだろうか。
「藍」
そんな声音で言われると困ってしまう。
でも皆の個人的な話は漏らしちゃダメだ。何とか誤魔化せ…!
「あー、皆の話はテディには言えないんだけど。ちゃんとテディは特別だからさ、安心してよ。ね?」
「本当?」
「うん」
「俺が1番?」
「うっうん」
「…なら良いけど…他のやつを1番にしたら刺すからね」
僕の匂いをくんくん嗅ぐとテディはそのまま寝た。
誰を刺す気?僕?他の人のこと?心底僕は肝が冷えながら聞けなかった。今更ながらテディとこんな近しい関係になってしまって大丈夫だったのだろうか。これで寮母辞めるねとか言ったらガチめに監禁されかねない気がする…。
ブルッと震えた。いや、将来のことを気に病むのは辞めよう。
あ、そうだ。思い出した、サミーさん。
おせっかいして欲しいって言われてたんだった。時間もまだメッセージ送ってもギリ大丈夫な頃だし。
テディに拘束されつつ携帯を手探りで見つけ、何とかメッセージを打った。
『サミーさんお休みなさい』
それだけLINEを送ろうと思ったのだが、考え直して僕はメッセージを追加した。
『サミーさんお休みなさい。遅くまで起きてちゃダメですよ。明日の朝のホテルの朝食も野菜ちゃんと食べてくださいね』
送る前に大分悩んだ。いや普通にウザくない?でもこういうのが嬉しいって言われた訳だし…
悩んで悩んでポチッと送信した。
即既読がついて良くない意味でドキッとした。
『うぜえ』って来るかなと内心ザワザワしてたら
『了解、寮母さん♪気をつけまーす。こういうのまたよろしく!』って来てホゥ…と安心した。
こういうのが良いの?
アイドルって分からない、まじで…。
僕は携帯をそっと枕元に置いた。
だけどサミーさんがこういうおせっかいを好む哀しい理由が、後々分かることになるのである。
***
翌日。僕はテディと一緒に帰ることになった。サミーさんはまた更に泊まりで別の仕事に行かないといけないらしい。アイドルって本当大変だ。
関係者用の車で一緒に揺られながら長い帰路についた。外の景色を眺めるテディ。整った鼻梁で本当に美しい顔で、ちょっと見惚れるくらいだった。
「…家着いたら俺、また夕方からは仕事行かなきゃいけないんだよねえ」
「あ、そうなの?」
「うん。でも夜は帰ってくるから安心してね」
まるで恋人同士の会話の様だけどそうじゃないんだよね。
「そうするとエート、今日はマンションにいるのは…」
「雷だけ。亜蓮はいないっぽい。スケジュール表確認しといた」
僕の方をチラッと横目に見たテディ。
「亜蓮と藍は引き離しておかないと危ないしな」
ウッと詰まる僕。亜蓮さんの言うことは何でも聞けって言われて、つい従ってしまうのも事実だった。
「あ、でさ。雷さんとその、なかなかお話出来る様な仲になれないんだけど、何かヒントとかない!?」
話を誤魔化した。しばし考えたテディ。
「雷はねえ、元子役なんだよ。俳優の道を諦めてアイドルになったっぽい。でも何で辞めちゃったのかは誰も知らない。雷は普段メンバーに対してもあんまり喋らないからなあ…」
うーんと更に考え込んだ。
「でもアイドルの仕事に関しては超ストイックだよ。練習も多分1番やってるのは雷。空き時間さえあれば朝から晩まで歌とダンスの練習。
正直何であそこまで努力できるのか俺には分からないけど。
あ、思いついた。食事の管理が大変だみたいな話を前に雷がしてたことあったから、食事周りで攻めてみたら?藍の得意ジャンル」
「な、ナイスアイディア!!それで行ってみる!」
「…別に良いけど」
「?何拗ねてんの」
「藍がまたメンバーを落とそうとしてるなあって」
「何言ってんの」
「雷に無視られて泣けば良いんだ」
プイッとそっぽを向いたテディ。
嫉妬心マシマシなのが更に増加してる気がするこの歳下の美男。だけど律儀に雷さんの攻略ヒントはくれるという親切な子でもある。
誰も見てないのを確認して、ありがとってテディの手の甲にチュッてキスしてあげたら、目をまん丸にしちゃった可愛いクマくん。
その後の綻んだ顔と言ったら…。
続く

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