長いこと待ってようやく撮影が終わる頃には夜になっていた。
何千枚と撮った写真を確認して、ほんの僅かにでも気に入らなければ撮り直ししていたから。おちゃらけ感はあるけれど、テディもサミーさんもその辺はプロなのだった。
相手役の女の子達も流石にもうヘロヘロ。そうりゃそうだ、あんな高いヒール履いてたら疲れるに決まってる。今日はゆっくりお風呂入って休んでね。ついそんな謎めいた母性を向けてしまった僕だった。
お疲れ様でした!と撮影現場が解散の流れとなる中。
「藍。お待たせ!」
「!」
周りにいっぱい人がいるのに普通にギュムと抱きしめてきたテディ。ハーフだからこうやってスキンシップ多めでも周囲からスルーしてもらえるだけだからね君…!
***
「晩飯はホテルの部屋で食うかあ。外でってのも面倒だし。3人で食お」
「えー、藍とふたりっきりが良いのに…」
「冷たすぎるだろ」
やいやいする2人だったけど、3人で食べることに合意はした。スタッフさんの用意してくれた弁当を持ち帰り、部屋で食べることになった。
ホテルのテディの部屋で、3人で幕の内弁当を食べる。本当はどっかで美味しいものでも食べたいだろうになあ…。これはこれで美味しいけどさあ。
「撮影遅くまで大変なのに、夜はお弁当とは…アイドルって大変なんですねえ…」
しみじみ言ってしまった。苦笑したサミーさん。
「まあねえ。皆さんがクリスマスを恋人達と楽しく過ごしてる夜も俺たちはリアルに仕事。ロケバスで弁当とか。な、テディ」
「うん。俺デビューしてからクリスマスに家族に会えたことないよ」
うぐ…っ!
俺にはマミーがいないとさっきテディが言ったセリフがまた別の意味で重くのし掛かった。
うう…聞いているだけで辛い…!こんなに頑張っているアイドルなのに…!!テディそんな寂しそうな顔するなよ誤魔化せてないよ。
あ、そうだ!
「ぼ、僕で良ければ遅くなる時は弁当作りますよ何品でも!」
言ってしまってから『やば』と思った。2人とも一瞬きょとん顔になったから。
やりすぎちゃったかな!?だよね!
ってかスタッフさん準備の弁当普通においしいし!普通にこれで良いしね!?
「あああでも男の弁当なんていらないですよね!すんません黙りま」
「「いる!!!」」
2人同時に僕の手首を掴んできたんで僕は箸を落とした。圧がすごい。
「良い。めっちゃ良い。寮母さんに弁当持たされるの良い。『お弁当忘れてるよ!』とか朝怒られるんだろ。最高じゃん」
「藍、俺のだけ具多くしてくれるよね?」
「食いしん坊かよ」
「違うの!俺だけちょっと特別扱いして欲しいってこと!!」
意外な程に弁当案が気に入られた様だった。テディがまたワガママ言ってきたけれど。
***
食事終わり。
当然の様に僕を部屋に引き留め、テディは早速サミーさんを部屋から追い出した。
「これから藍と2人で過ごすから帰って」
「本当つめてーなお前」
ぐいぐいとサミーさんを追い返し、バタンとドアを締めてしまったのだ!
「あーテディ!僕サミーさんと話があったのに」
「何の話?」
キラ、とテディの瞳が光る。
「これからは皆の話をもっと一人一人聞いてこうと思ったの!皆大変そうだしさ。そういうのも寮母の仕事かなって。
それに寮母の仕事アレコレちゃんとしてないと僕クビになっちゃうんだよ」
ほんのり絡めたそれっぽい嘘にウッと顔を顰めたテディ。
「まじ?」
「うん。まじまじ。…僕がいなくなったら嫌でしょ?」
「ああ」
「だからちょっとだけ行ってくるよ。2人で話して、終わったらテディの部屋に戻ってくるから。ね?」
「俺も行く」
「話聞いてた?」
「聞いてた。行くぞ、藍」
シレッと言い放ち僕の背中を押していったテディだった。
コンコンと訪れたサミーさんの部屋。ガチャリと扉が開く。整った顔だちに垂れ目の瞳が面白そうに僕を見下ろしている。
「あら?どうしたのペット連れて」
「ペットじゃない恋人」
「どうしても着いてきちゃって…」
「藍。早くして」
「テディ!そんなくっつかれてたら話できないよ。ちょっとあっちのほうで待っててよ、ね?」
しぶしぶちょっとだけ先の自販機らへんまで歩いていったテディ。壁に寄りかかってこっちを見ている。
いやその距離だと普通に聞こえるんでは…?まあ良いや。
「用心棒かアイツは…んで何?藍」
「あー、要はですね、寮母として皆のことをもっと理解したいので、出来れば1日1回くらいは皆とふたりで話したいんです」
「おお!素晴らしい。良い心がけじゃない。それで俺んとこに藍からわざわざ来てくれた訳か。…ふつーに嬉しいや」
へへと笑ったサミーさん。笑うとちょっと幼くなるその笑顔にうっかりときめいてしまった。
「それでえーとその…サミーさんは僕にやってほしいこととかあります?何でも」
テディの時みたいに、何で寮母が必要なんですか?って聞ければ良いんだけど。でもうっかり超踏み込んだ話題になったりするとなあ。すぐ側にテディいるし…と思ってこんな回りくどい聞き方になった。
内緒話するようにこしょこしょとサミーさんは言ってきた。
「俺?そうだなあ。…俺は藍におせっかいして欲しいかな」
「おせっかい」
「お風呂入ったの!?とか、ちゃんと野菜食べなさいよ!とか嫌いな野菜を弁当に突っ込まれたり。うわうぜえ〜っていうやつをされたいかな」
「え、はあ…」
「あとはまあ…電話もメッセージも出来れば頻繁に…『何時に帰ってくんの?』とか良いね…」
あまりにしみじみ言うんでつい突っ込んでしまった。
「で、でも嫌じゃないですか?普通そういうの…?」
「何で?俺はそういうのこそ求めてんの。分かった?藍から聞いてきたんだから、これから絶対毎日やってくんないとダメだよ。
マジメな話さ。俺、藍がそれやってくれたらドマハリする自信がある。…俺を救ってくれよな、藍」
ドキッとした。
どうして?何から救えば良いって言うんだ。でもサミーさんの脆さの片鱗はこのあたりにあるのかもしれない。そう思った。
もっとサミーさんのことも理解しなくちゃ、そう思ってぼくはただ答えた。
「わ、分かりました…」
続く

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