ヤンデレ

【ヤンデレメーカー#8】テディの心の闇

「何してんの!?ふたり!!!」

スパンと後ろから僕とサミーさんの手を分つ者がいた。テディだった。

ハッと見上げた。眉根を寄せて苦しそうなその表情にギクッとしてしまった。

「俺休憩するって言ってきたから!!撮影再開まで30分休憩ね!」

近くの椅子を荒々しく引っ張ってきて、僕とサミーさんの間に強引に割り込んだテディ。ドカッて座って長い脚を組んだ。

それを見て苦笑したサミーさん。テディを揶揄い始めた。

「はいはいすいませんねえ王子」
「サミー、投げ飛ばすよ」

サミーさんの垂れ目の目尻を更に下げて笑った。その人の良さそうな笑顔からはさっきの唐突な暴力性は想像できない。

何だったのだろう、あの刺すような痛みは…。ドキリと鼓動が鳴った。

 

 

結局僕とサミーさんが2人っきりになるのがイヤだというテディが、その後強引に撮影の順序を変えてもらっていた。(なんてわんぱくなんだ…)

今度はさっきと逆で、サミーさんと相手役のモデルの女の子の撮影を2人で遠目に見守っていく。

それにしてもサミーさん背高いなあ。メンバー皆大きいけどさあ。

チラッと様子を見てみたテディは、ややムスッとしている。

その癖さっきスタッフさんから貰ったいちごジュースを飲んでいる。カップにストローさして。かわいい奴。

「…さっきサミーと何話してたの?ずっとイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャしてさ感じ悪っ」
「何回イチャイチャ言うんだよ。してないって」
「してた」

フン!とストローでカップのアイスを無闇に突き出したテディ。ふと僕がアイスピックでテディに刺されるイメージが湧いてしまってゾク、とした。いやいや、流石にないよね。流石に…。

「それで。何話してたの?デートの約束?」

キッと悔しそうにやっとこっち見たテディ。感情豊かだね君…。

「してないってばあ。その、前の寮母さんが何で辞めちゃったのか聞いてただけ。
何か、皆寮母みたいな存在が必要なんだー、って言われたんだけどさ」

「ああ…その話…」

スッと瞳を逸らしたテディ。一体何なんだ?何を抱えているっていうんだ皆。

大きな体のくせにちょっと肩をすくめたテディ。ちょっと寂しそうな様子に胸がギュンてなってしまって、テーブル下でテディの袖を引いた。こしょこしょと話しかけた。

「テディ」
「!なに?」

こしょこしょと応戦してきたテディ。ちょっと嬉そう。正直だね君本当。僕までついちょっと笑っちゃったよ。

「ね、何でテディは寮母が必要なの?」
「…クマだから」
「何それ」
「クマくんには抱きしめてくれる誰かが必要ってこと。藍がこれからはやってくれる♪」
「良く分かんないよ」

こんなハンサムボーイを抱きしめたいファンなんて幾らもいるだろう。遠くの方でさっきのモデルの女の子、ずっとチラチラとテディのこと見てるし。あの子とかどう?って感じなんだけど。

「だからあ」
くしゃ、とテディは金髪の髪をかきあげた。流し目されてドキッとした。歳下のくせになんて色気があるんだ。

「アイドルって大変だから。こんな撮影現場なんて仕事のほんの1%。自由はないし。売れてはいるけどね、俺たち。でもお金じゃ埋められないモノがあるんだ。

どんなに寂しい夜だって基本ひとり…」

まあ、そうか。まあ彼女出来てもデートもままならないもんね。ちょっと可哀想かも。

「メンバーと夜遊んだりは…?」
「集まる時もあるけど。でも皆ずっと出ずっぱりで忙しいから。帰ってきてもすぐ寝ちゃうとか、台本覚えなきゃとか。忙しいんだよね」

そうか…まあそうだよな。大変だなあ、アイドル。

「じゃ、じゃあさ、家族とかは?電話したりしてさ。お母さんなら甘えても良いんじゃない?テディ」
「俺にはマミーいないんだ」

ふざけて言ってしまったことを死ぬほど後悔した。

寂しそうな薄紫色の瞳で僕をじっと見つめて、そしてふと笑った。歳下の男の子、テディ…。

 

 

その後テディも呼ばれて撮影は続行された。

遠目に見るテディとサミーさん。相手役のそれぞれの女の子達。キャッキャして、撮影現場は華やかで和やかな雰囲気だ。テディはいつも通りのプレイボーイさで女の子とデートシーンを上手く撮っている。傍目には分からないもんだな。あんな子にも心の空洞があるなんて…。

要は誰かに甘えさせてほしいってことなのかな。テディくんは。それが彼女って存在だと出来ないから、マンションに出入りしててもおかしくない
男の『寮母』という存在が必要。そういうこと?

サミーさんのセリフを思い出す。

『藍も分かるよそのうち。アイドルって過酷なんだってことと、俺たちの脆さがね』

亜蓮さん、雷さん、サミーさん。他のメンバーにもそれぞれの心の空洞があるってことなんだろうか。でもどんな空洞があるのかは、それぞれに話を聞いてみないと分からない。もっとメンバーの皆と会話しなくちゃな。

僕の中で使命感が燃え始めていた。

僕で良ければ全然協力しよう。僕なんかで甘えたいと思ってくれるなら胸のひとつくらい貸そうじゃないか。

なんて思っていたんだけど。埋めきれない程の空虚さを抱えた彼らに、うっかり手を差し伸べてしまったことからその後信じられない執着を向けられることになるとは、この時まだ知る由もない。

 

 

続く

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