撮影は進んでいく。サミーさんとテディは今度女性向けの雑誌に出るらしく、その撮影をしていた。
テーマは『彼と過ごす週末』とのこと。もしも彼らが彼氏だったら?っていう設定で撮ってるらしい。
外でコーヒー飲んだり街をブラブラ歩いたり。そんな日常的なシーンを今は撮っている。
まさに雑誌から抜け出てきたみたいな格好して、ヘアセットもしてもらって、遠目から見ても美しすぎる2人。
2人の表紙撮影は終わり、テディが先に個人撮影をしている。それを僕とサミーさんは遠くから見ていた。
テディが役がら上、相手役の女の子の手を繋いだり後ろから抱きついたりしてる。あらら、モデルの彼女、顔真っ赤だよ。そりゃそうだよね。それにしても美男美女だなあ、街であんなのいたら振り返っちゃうよ。しかし女の子の扱い手慣れてんなあ。
本当は末っ子気質のわがままボーイの癖に。あと執着心マシマシのヤンデレ君の癖に。
なんて、本当は僕みたいな凡人が知り得るはずもないんだよね。
改めて僕がこのアイドルグループの寮母をやっている現実が不可思議に思えてきた。
だから隣の席にいるサミーさんに僕はつい聞いてしまったのだ。
「あの、僕が寮母で良いんですかね?」
「え!?全然良いと思うよ俺、もしかしてもう辞める気!?」
ガシと手を握られてドキッとする。
「え!?いやいや、辞めたりはしないんですけど!僕なんかで本当に良かったのかなあって…」
「藍に来てもらえて良かったって俺思ってるよ!?多分皆そう!」
「サミーさん…」
こんな自分ごとみたいに真剣になってくれるなんて。じ〜んと来た。やっぱ良い人だ…。
「そう思っていただけるの嬉しいです、だから引き続き頑張りますね!」
ニコと笑ったらサミーさんも眉根を緩めてくれた。
「そ!そうしてよ。もし辞めたくなっても勝手に辞める前にまず俺には相談してね?絶対だよ?」
手をギュッと握られた。
「何か今時点で困ってることとか聞きたいことある?まあ色々あるだろうけどさあ」
「えーとちょっと気になってたんですけど前の寮母さんて何で辞めちゃったんですか?」
そう、地味に気になっていたのだ。
「あー…その…非常に言いづらいんだけど。誰も懐かなくて…」
「え!?」
ははと気まずそうに笑ったサミーさん。困り顔だ。
こしょこしょと耳打ちする感じで話してきた。間近で見るとカッコ良すぎて僕は内心沸騰しそうにドキドキしてしまっていた…!
「いやー、寮母さんていうかまあ藍と同じで男性だったんだけど。テディとか匂いが気に入らないからイヤとか言うんだよ。犬かよ。
それで自分のお気に入りの女の子出入りさせちゃうしでさあ…週刊誌に撮られるから辞めろって俺が何度キレたことか…」
大変なんだなあ…。
「雷はずっとツンツンしてるし、亜蓮も全然関わろうとしないし。
俺はまあ…多少はね、関わりあったけど…」
「そんなにアレな人だったんですか?」
「いやー?普通に良い人ではあったけどねえ。
まあでも雰囲気が合わなかったってことかな。ゴメンだけど辞めてもらった…そんなのが何回も続いてんだよ、ウチは」
僕は首を傾げた。
「もはや寮母いらなくないですか…?寮母いなくても実際回ってるってことでしょ?雑用とか」
サミーさんはガシッと肩を抱いてきた。鍛えてるのか筋肉質な良い体で僕はドキッとしてしまった。
遠目に僕らを見つめているテディの顔がクワッと険しくなった。やば。そんな殺人光線出してこないで。
「いやあ〜藍ちゃん!それは違うんだよ。そうじゃねーのよ。雑用ってのは表向きの理由であってさ…俺たちには寮母みたいな存在が必要なの。
…藍みたいなね」
耳元で低い声でそんなこと言われると、変になりそうだ。サミーさん…辞めて…。沸騰しそうな血がぐるぐると頭ん中を巡っている。
「でっでも今まで何人もクビにしてるんでしょう?」
アワアワと言った僕、ウッと決まり悪そうなサミーさん。
「それはすいませんでした!
…だけどね、何で俺たちに寮母がわざわざ必要なのか?合わない人は入れ替えてでも。
…藍も分かるよそのうち。アイドルって過酷なんだってことと、俺たちの脆さがね」
ハッとして振り返った。
少し哀しそうな瞳をしたサミーさんが、僕を見つめていた。
「サミーさんも…?」
「そうだよ」
「…僕で本当に良いんですか?」
「もちろん。実は他のメンバーにも色々聞いたけど、皆大分懐いてる。雷はまだだけどね。でもあの雷がちょこっと喋ったと聞いて俺は驚いた」
「どうして僕なんですか…?」
「それもいずれ分かるさ。いや、分からせてあげる」
「!」
ギュウって爪を手首に食い込ませる様に握られて、僕はあえいだ。痛みになのか、執着心になのか。
続く

限定作品公開中!詳しくはこちらをクリック↓
