いざ!暁都さんのどきどき実家訪問!
の前に、まずは予定していた旅行でしっぽり僕らの仲を深めて…
のその前に。
奴をシメなきゃいけない、ということで暁都さんは瀬川さんを自宅に呼び出してキレていた。
リビングの椅子に座らされている瀬川さん。しかし申し訳なさそう感はゼロだ。
ダン!とテーブルに手をついた暁都さん。コーヒーのカップがガチャン!と揺れた。
「あんた、何で呼び出されてるか分かってんだろうな!?」
頭から湯気が出そうな勢いでブチギレている暁都さんを前に、何故かにこにこと余裕の笑みの瀬川さん。
「シノさん、誘惑に失敗しちゃったみたいですねえ。残念。地獄の朝を2人には迎えて欲しかったのに」
「ああ!?」
「浮気くらいしとけば良いのに」
「…!!」
さああっと自分の血圧が急降下するのがわかる。ヤバいから辞めてほしい、暁都さんに浮気ネタは地雷なんだって!
「結構いくじなし?」
フッと笑って挑発した瀬川さんに暁都さんはついにガチギレした。
「てんめえ、ふざけるな!」
暁都さんは椅子から立ち上がり、瀬川さんの胸ぐらを掴んでぶん殴り相手は吹っ飛んだ…!と本来なるところ。
瀬川さんはバシィ!と正面から暁都さんの拳を受け止め、なんとそのままペッと退けてしまったのだ!
「…!」
驚きを隠せない暁都さん。
「俺ねえ、武道やってたからけっこう力強いんですよ。暁都さんもその感じ、なんかやってました?まあでも、俺の力には敵いませんでしたけどね」
そうしてヌッと立ち上がった瀬川さん。
油断ならない瞳は僕らを楽しそうに見下ろしている。いつもより大きく見えた。思わずと言った感じで僕を庇うようにして手を広げてくれた暁都さん。
「一つ教えてあげます。俺が本気だしたらいつでもたくみくん、さらえますからね。
ま、という訳で。今日のところは帰ります。また来ますね♡」
…なんてことがあった訳なんだけど。
「瀬川さん…今後どうする気なんだろうね…」
「アイツの話は今は辞めて…」
揺れる電車内、グリーン車の座席で。僕らは京都へ向けて旅立ちつつ、ゲンナリとしていた。
「そ、そうだよね!?折角の旅行だし…あ、暁都さんっ車内販売でアイスでも買う!?」
「ああ、良いな。そうしよっ!?
…。
……。
くそ…くっそおおおお!!!せっっかくの旅行なのに!!不安が纏わりつく!!!今もこのグリーン車のどこかにアイツが潜んでるんじゃないかって!くっそおおおおお!!!」
暁都さんはその無骨な手で大層ハンサムな顔を抑えて小さな雄叫びをあげた。
たははと僕は苦笑するしかなかった。
良かった。平日のグリーン車たまたま今僕らしかいなくて…。
僕以上に、暁都さんの方にダメージがいってるみたいだった。拳で負けたのが相当悔しかったみたい。まあ確かに、身体自体は瀬川さんの方が大きいし。
『たっくんに何かあったらヤバい、盗られたくない』
暁都さんのそんな不安とモヤモヤから、京都旅行の日程を早めていたんだけども。
これは暁都さんのメンタルケア旅行になりそうだなあと僕は内心苦笑していた。
「暁都さん落ち着いてっ。ね?アイス買ったらあーんしてあげるからさ」
「ほんと?」
ちら、と指先の合間からこっちを見てきた、おじさんの癖してかわいい所のある暁都さん。その手の甲に僕はそっとキスをした。
へへ…と嬉しそうに笑った暁都さんだった。少年みたいなんだよなあ。
***
京都は結構遠くて、着く頃には結構良い時間になっていた。ホテルにもうチェックインしちゃお、と向かったら。
すんげ〜良いホテルというか旅館というか、日本庭園みたいなところで僕は目玉が飛び出る思いだった。
「え…!?」
「さ、いこいこ!」
戸惑う僕の背をいそいそと押していく暁都さん。
「これ大丈夫なやつ!?」
ヒソヒソ言ったら。
「んん〜?まあ7000円くらいだよひとり」
絶対ウソだろうと思ってあとでこっそり調べたら、一泊70万だった。
70万だよ!!!桁2つ違うし!!!!!
***
ここの旅館はちょっと特殊だった。
各部屋に個別の露天風呂がついてるんだけど、扉で仕切りがついている。そこを開けると大きな共有の露天風呂に繋がっている。
自分たちだけでしっぽり温泉楽しむのも出来るし、大きな露天風呂で夜空を楽しむのもOK。
そんなワガママを叶えてくれる場所だった。
(伝われ)
まあ、僕としてはそういうシステムだって聞いた時点で、暁都さんの悪巧みにうっすらと気づいていた。
「ささ、たっくん♡食事前に風呂はいろ♪」
「露天風呂でセクハラしたら沈めるからね?」
多分そういうやつだ。半公共の場でいちゃいちゃしたいのだろう。
「は〜い分かってまああす」
すまし顔でサクサク脱いでいく暁都さん。おじさんなのにお腹は全く出ていない。引き締まっている身体があらわになって僕はちょっと目を逸らした。
そんな僕を彼は悪戯に笑って、ぽいぽいと脱いだタイトめジーンズやらニットの長袖やらを僕の顔面にわざとぶつけていきよった。
檜の香りが最高な、掛け流し温泉。
ちゃぷ…と入る。扉は閉めてあるから、男2人で入ろうが、実は僕が暁都さんの脚の間に座る形で温泉入っていようが、誰にも見られない。
外からは家族連れの声やらカップルっぽい人たちの声が聞こえる。
「はあ〜〜…最高…」
ふふと僕は振り返って微笑んだ。暁都さんも笑ってチュ、と僕らはキスをした。
ここのところ色々あり過ぎた。久しぶりに肩の力が抜けてホッとした。
…のは彼も一緒だった様で、さっそく悪戯な手がちょっかい出してきたのを捻り上げた。
「うういってええ〜ハハハ」
「(余計なことしたら沈めるって言ったでしょ)」
こしょこしょと耳元で言ったらさ。
「君になら殺されても良いから俺はイイコトしたい」
って真顔で言われてしまって…!
ズルいんだ、暁都さん。そんな声音、射抜く様な瞳で言われたら僕が断れないの知ってるくせに。
声を出さずに睦み合う。ドキドキが止まらない。間近に誰かいるのにこんなところでイチャイチャするっていうのは僕にとっても刺激的すぎてつい盛り上がってしまったのは、反省してる…!
浴衣着て部屋でごろんて横になる。やば、良い感じに眠くて寝そう…。
「まだ寝かさないよ」
そう言って暁都さんの手が頬に触れた。愛おしそうに。
僕は悪戯に切り返した。
「瀬川さんがどっかで見てるかもよ?」
「うっオエ。なんてこと言うんだたっくん。ま、でも良いさ。つけ入る隙ねーから!って見せつけてやるよ」
覆い被さってきた暁都さん。その背に腕を回した。
まあ、瀬川さん対策はゆっくり考えよう。今後のことも。
今はこの幸せに身を委ねてれば、それで良いじゃないか。たまにはね。
そうこの時思ったのは正解だった。
どうせ実際に嵐はその後すぐにやってきたのだから。
続く
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