好きな人に嫌われてる受けくんの話が読みたくて、自給自足しました。続くかもしれない。
#美形平凡#嫌われ#健気受け
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「…駿!お、おはよう…!」
「……」
駿の切長な瞳は僕を捉えたものの、いないものと処理をした。
朝の通学路、勇気を振り絞ってかける声は毎日こうやって無視されている。僕を素通りしてさっさと歩いて行ってしまう。
なのに僕は駿に纏わりつくのをやめられないでいる。
「…駿、その、最近やっと涼しくなってきたね。夏もやっと終わり…」
駿はふる、と頭を一瞬振って前をギラと睨みつけた。…心底イライラしてるのが伝わる。
男らしい美貌、長めの茶髪。横から見てるのは大好きだ。
「…その、校門のとこさ、金木犀の良い匂いがするね、見た?」
「!!うるせえ!ぶっ飛ばすぞ良い加減あっち行けよ!」
驚いて鞄を落としてしまった。
僕にブチギレ、恐ろしい形相で叱ると今度こそ一人で駿はあっちへ行ってしまった。
一人とり残された僕。
『うわあ、あれまたやってんの?』『カワイソー』なんてヒソヒソ声が聞こえてくるけど…別にどう言われたって僕は平気だ。
鞄を拾って立ち上がる。
そうだった、金木犀の話題はダメだった。
駿の想い人、伊吹が好きなんだった。どんくさい、鈍い、自分がイヤになる。
その伊吹が事故で意識を失ったまま入院してもう1年。
伊吹が僕のせいで事故にあったと信じて疑わない駿が、僕を毛嫌いする様になったのももう1年か。
でも駿、それでも僕は君が大好きだよ。
『骨の髄まで大嫌い』
朝のホームルーム。
運が良いのか悪いのか、駿は僕の前の席。
好きな人を常に視界に入れられるのは良い。
だけど駿が僕にプリントを渡す時、絶対に僕の方を見ようともしないのがヒシヒシと伝わる席配置でもあって…。
今日の朝の一件ですこぶる機嫌の悪い駿は、わざとぐしゃぐしゃに折り目をつけてプリントをよこした。殺したいくらいに思われてるのかな。哀しい…。僕はこんなに好きなのに。
しかも生憎、ホームルームで先生が出した話題は伊吹のこと。学校に復帰できないから留年することになった、と…。
ビクと肩を一瞬揺らした駿。
ああ、イヤだよね、辛いよね。
片想いしてた子と、一緒に高校生活したかったよね…。
僕らは高3。来年はこの高校にいない。
伊吹がもしもこの学校に戻ってきたとして、あの伊吹を一人きりにしておくのは駿も心配なんだろう。
伊吹と駿と僕は3人幼馴染。伊吹は綺麗な外国のお人形さんみたいな子だった。平凡な僕と違って。
駿は伊吹が本当に大好きで大切で、宝物の様に
ずっと扱ってきた。ナイトみたいに下心を一才出さず。
だけど高校に上がったあたりから伊吹は色気を増すようになった。誰もが伊吹を好きになり、皆が伊吹を取り合った。
不安に耐えきれず伊吹に告白をしたのは、駿。
僕は知っている。ある夕暮れの放課後、教室で駿が伊吹に告白する場面を。たまたま廊下を通りがかってしまったから。
「他のヤツに譲りたくない!伊吹、俺と付き合ってくれ!」
頭殴られたみたいな衝撃って正にああいうことを言うんだろう。僕がひっそりと駿から言われてみたいと妄想してきたままのセリフを、駿は伊吹に言ったのだ。
だけど伊吹はあっけなく言った。
「ごめん、駿をそういう対象に見れない。友達のままでいよう」
心底安堵したのを覚えてる。
ダッと駿は教室から飛び出て来て…一瞬僕らは目が合った。駿の目は赤かった。でもそのまますぐどっか走って行っちゃった。
どうしたもんかと思いつつ、教室に入ったら伊吹が悪戯に微笑んで僕に言ったんだ。
「…聞いてたでしょ」
その日。何でだか伊吹と一緒に帰る流れになってしまい、僕はそれが内心すごく嫌だった。
二人並んで歩く。
「…なんかさあ。皆ああやって告白してくるんだよね…困っちゃうな。今のところ僕に色目使ってこないのは瑠璃だけだよ」
ふふ、と微笑まれて僕は困っていた。
同時に心底羨ましかった。
あっさりと伊吹がいらないと振った駿のことが、僕は誰よりも好きだった。けど、駿の眼中に僕はいなかったから…。
「…でさあ、瑠璃。瑠璃?」
僕はいつの間にか上の空になっていて、ハッと顔を上げた時に異変に気づいた。
急カーブを曲がってあっちから来た車、スピードがおかしかった。
「あ、危ない!!伊吹!!!」
僕は二人避けようと咄嗟に伊吹の手を引いた。
僕はギリギリ避けれた。でも伊吹は間に合わなかった。二人の違いは、どっちが車道側歩いてたか。ただそれだけ…。
それから駿は、病室で意識の戻らない伊吹を見ては泣き崩れていた。
昇華されない悲しみは行き場を失い、やがて僕への憎悪へと変わってしまった。
『どうして瑠璃だけ助かったんだ』それどころか『伊吹はきっと瑠璃を庇ったからこうなったんだ、瑠璃が正直に言わないだけで』とさえ駿は言った。
そしてそれが『伊吹がこうなったのは瑠璃のせいだ』に変わるまで、そう時間はかからなかった。
ショックで駿はどこかおかしくなっていたのかもしれない。口もきいてくれなくなった。いやそれどころか僕を毛嫌いする様になった。
「お前なんか大っ嫌いだ!」
何度言われただろう。
駿からの嫌悪感でいっぱいの瞳も、吐き捨てる様な口調も。身を切られる痛みだった。
でもそんな仕打ちを受けても、馬鹿みたいに僕は駿が好きだった。誰かを想う気持ちなんて理不尽なものなのだ。
駿が伊吹を想うように、僕だって駿を想っている。
そう言い聞かせて耐えた。
それに駿の前で泣いたりしないと決めていた。
僕が泣いたら、駿は悲しみのぶつけ先がなくなってしまうから。
***
その日、放課後になって勇気を出して駿に僕は切り出した。
「伊吹のお見舞い、これから一緒に行かない…?」
チラと僕を見た駿。でも、伊吹のお見舞い関連だったら会話してくれることは心得ている。
「…良いよ」
僕はホッとしていた。
病院へ行きすがら。今まで何度も話してきた通り、話をした。
「それでさ、駿。今まで、何度もなんども言ってるけど。伊吹は僕を庇って事故にあったわけじゃないんだよ。僕は一応助けようとしたんだよ、信じてよ…」
「……」
半信半疑どころか全く信じていない駿。いつも通りだったけど、その日は一つだけ違うことがあった。
それは見通しの悪い交差点に差し掛かった時。一台のバイクがスピードを緩めず突っ込んできたんだ!あの日と同じ!やばい、ぶつかる!
「危ない駿!」
咄嗟に駿の腕を引いた。ドサっと倒れた身体。そのすぐ真横をブウン!!と通り過ぎていったバイク。
心臓がドッドッと鳴っている。
「駿…?平気…?」
冷や汗をかいて暫くぼうっとしていた駿。やれやれと立ち上がった。
「…瑠璃、ありがとう。……お前の話、本当なのかもな…」
エッと顔を上げる。久しぶりに僕に対して表情を緩めている駿がいて、涙が出そうになった。
1年ぶりに『大嫌い』が揺らいだ瞬間だった。
だけど神様に僕はとことん嫌われているのか。
それから少し経った頃。奇跡的に目を覚ました伊吹は、お見舞いに来ていた駿と僕に病室でとんでもないことを言ったんだ。
スッと指をさした先は、僕。
「…あの時…あのとき瑠璃が…僕のこと、押したんだ…駿を取らないで、とか言って…。それで僕は…事故にあって…」
「な、何言ってんの伊吹!?」
おそらく記憶が錯乱している伊吹は、あろうことか僕を犯人と言った!
慌てふためいた僕を、きっと悪い方に曲解したのだろう駿。
ズカズカと僕の方へ来ると、強く僕の胸ぐらを締め上げ咆哮した。
「瑠璃!心底見損なったよ!嘘つき!!お前なんか、大っ嫌いだ!!!!」
ギラギラと憎悪を噴出させた瞳は忘れられそうもなかった。
誰よりも大好きな人からのそんなセリフは、今度こそ弾丸の様に僕の胸を撃ち抜いた。
はじめて駿の前でぽろりと涙が溢れた。
駿、僕はこんなに君のことが好きなのに。
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よろしくお願いします♪
伊吹くんがなんで嘘ついたとか、この三角関係の続きが気になります!!
>あめんぼさん
コメントありがとうございます♪受けくんは報われるのか!?しばしお待ちを…!