翌日。オフィスに訪れた僕に瀬川さんは驚いた様にすぐに言った。
「たくちゃんどうしたの、顔色悪いよ」
「小春って苗字で呼んでくれません?」
明け方どうしても目が覚めてしまったのだ。
改めて考えたら、暁都さんと僕の身分(?)には随分な隔たりがあったことを改めて考え込んでしまって…
「おじさんに相談してごらん?」
肩にポンてされるのを振り払いつつ、適当に答えた。
「昨日の夜、ついゲーム実況見すぎちゃって…」
社会人失格ですよねえと上の空であははと笑った。
また一人に逆戻り?
せっかく良い出会い見つけたと思ったのに。
ああ…あああ…
その後も瀬川さんがあれこれ話しかけてくるのを、上の空でハイハイと生返事してしまった僕。これがその後、猛烈に面倒な事態を引き起こすことになる…!
『最強ペア』
ワタワタと慣れない仕事に勤しんでいるウチにあっという間に一日は過ぎ去り、定時後。
「さ!たくちゃん。これから瀬川家に行こうか♪」
「え!?行かないですよ!?」
「ダメだよ、ハンコ押したじゃん」
「え!?」
スッと差し出してきたのは一枚の書類。
タイトルは『瀬川家訪問に関する承諾書』!?
よく見たら僕はサインして印鑑を押している!?
「たくちゃんダメよ〜仕事の流れ作業は。悪用されちゃうよ♪」
「うううっ…!!!」
流す様にやっていた仕事の最中、僕はあり得ない書類に承諾をしていた。
「ってことで!行こうね♡」
出た、肩ポン!ヒッとなりつつ僕は絞り出した。
「あ、暁都さん一緒じゃないと…!!!」
僕って小学生みたいだなと、我ながら思った。
***
ビルの下、ひと気のないところで待つ。
暁都さんにはさっきLINEして即既読がついていた。
「あ!暁都さん来た!!」
信じられないものを見る目で暁都さんは僕らの方へやってきた。そして半ギレで言った。
「なんで俺たちがあんたの家行かなきゃならないんだ!」
「親睦深めたいだけですよお。それにご近所さんじゃないですか♪」
「あんたが無理やり引っ越して来たんだろうが!」
「やだなあ、あんたじゃなくて瀬川 謙太郎ですよ。謙ちゃんて呼んでも良いですよ♡」
「知るか!!!!」
ブチギレ声が反響した。チラホラ人が振り返っていった。
「暁都さん、落ち着いて…!」
「良いじゃないですか、ウチでピザパーティーするくらい。ねえ?」
「ダメ、あり得ない」
ふふと瀬川さんは笑って言った。
「要はアキトさんは自信がないと。たくちゃんが俺になびきそう、って思ってるんですね♪」
ビキと空気が凍りついた暁都さん。
や、やめてー!!何を挑発を!?
「あんたみたいな変態には近寄らせないって言ってるんだ」
「変態ってそれはお互い様♡アキトさんだって傷心のたくちゃんにつけ込んでモノにしたでしょう?」
「それは合意の元!嫌な言い方すんじゃねぇぇぇ!」
バチバチと火花が散る。
この二人、相性最悪だ…!!!
「ま、たくちゃん取られない自信があるなら尚更ピザパーティーくらい良いじゃないですか?
今日ウチ来てくれないなら、やっぱ自信ないんだ〜隙あり♡って俺は思いますけどね」
「…!!!」
「アキトさんて、意外と弱虫♡」
暁都さんはギリギリと拳を握り、ひとしきり逡巡してから言った。
「……絶対ウチの方がデカくて家賃高いからな!!!!」
***
「うわー…お洒落…!」
訪れた瀬川さんのお家は、広くてお洒落で高そうだった。内装は凝っている。さすが、センス良いんだ。
「…ふん、やっぱりウチの方がデカいな」
得意気な暁都さんだったけどね…!
「ささ、じゃあ早速料理開始♡たくちゃんエプロンあるよ」
「え?あ、はい」
僕からエプロンを取り上げ暁都さんが言う。
「あんたがホストだろう!あんたがやれ!」
「アキトさん、俺みたいなおじさんの手料理食べたいんですか?へんた〜い♡」
「黙れ!!!!」
ブチギレた暁都さんだった。
結局…
色々譲らない長身ふたりに挟まれ、僕はトマトだのベーコンだのを切っている。
暁都さんはピザ生地にピザソースを塗っているし、瀬川さんはサラダを盛り付けている。
え、なにコレ?
逆に仲良い感じになっちゃてるけど、良いのかな?
すいすいとピザに僕がカットしたものを盛り付けていく暁都さん。
「お、アキトさん器用ですねえ〜」
「まあね。あんたのためじゃないけどね」
「こっちのサラダもおじさんには準備してないですけどね〜♪」
「ああ!?」
またもバチバチと火花が鳴る。
もうやめてー!
「ここにいるの、全員おじさんですから!!!」
せめてそう割り込むのがせいぜいだった。
しばらくして焼けたピザ。ワインだのお酒の数々。広いテーブル上に置いて、いただきますとパーティーを始めた。
「あ、美味しい」
モグモグ食べつつ僕は言った。
一方眉をひそめつつ無言でピザやサラダを頬張る暁都さん。美味しいと言うべきか、否か迷っているんだろう。負けず嫌いだなあと内心苦笑した。
「ささ、皆もっと飲んで♪アキトさんもどうぞ」
「……」
無言でグラスを差し出す暁都さんだった。
お酒を飲み交わしつつ、楽しい(?)パーティーは過ぎていった。
「…いやあ今日は楽しかった。おじさん嬉しい♪地方で一人暮らし、結構寂しくてね〜」
たははと少し寂し気な瀬川さん。
僕は暁都さんと目を合わせた。
瀬川さん…下心なんてなく、本当はただ誰かと楽しいひと時を過ごしたいだけだったのかな…?なんて思ってしまったんだけど。
「…あんた、そういうことなら…」
「それに!たくちゃんと将来一緒に暮らすイメージもちゃんと出来たし♡間男が割り込んでくるイメージもついでに出来たし。まあ割り込まれるのもなかなか楽しいもんだね」
「何を言っとるんだあんたはあああ!!!」
暁都さんがブチギレかけたその時。
携帯がヴンヴンと唸り出した。
暁都さんの携帯だった。チラッと携帯の画面を見ると、暁都さんは携帯を戻した。
「アキトさん、出て良いですよ?」
「…後で出る」
しかし携帯は鳴り止まない。
「緊急じゃないですか?」
「別に」
しかしその後もずっっっと鳴り続ける携帯。
このしつこさ…もしかして…
「元カノからでも電話来てるんですか?」
「…そんなんじゃない」
苦笑した瀬川さん。苛々が募り切った暁都さん。
「やっぱそうなんですね♪」
暁都さんは携帯を掴んで無言で立ち上がり、廊下の向こうに消えていった。
しかしピッタリと締め損ねたドアの隙間から漏れ聞こえてきたのは。
『紫乃!!!!電話掛けて来るなって言っただろ!!!』
くうう〜…っやっぱり紫乃さんだった。
「やっぱり元カノなんだ。アキトさんモテますね〜」
あははあと機嫌よく笑う瀬川さん。
『今からウチに来る!?く、来るな!!!』
え!?なんか不穏なセリフが聞こえちゃった様な…
『スペアキー!?やめろ!!!!待て!!!』
ひっくり帰った暁都さんの声。
僕は察した。
多分『今から暁都の家に行く。家に入れてくれなきゃスペアキー勝手に作るから』とかなんとか脅されてるんだ多分!
紫乃さん、それは犯罪の域!でもあのお嬢様はやり兼ねない!
「やばい!すみません、僕らもう帰ります!」
「え〜?良いじゃない、元カノからの電話くらい。放っておけば♪」
「元カノじゃなくて元奥さんですよ!ちょっとややこしい人なんです!ホントに多分来ちゃうし!!帰ります、今日はご馳走様でした!」
僕は暁都さんの分も荷物も持って立ち上がり、ドタバタと準備する。
「え〜また来てね〜」
残念そうな瀬川さんに見送られつつ、僕らは瀬川家を後にした。
僕らの家に向かって走りながら、元奥さんて訂正する必要は別になかったかなとふと思った。
「たっくん!紫乃が!ウチのスペアキーを!」
「分かってる!」
でもそんなことより家のスペアキー作られることへの不安の方がやばかった。
走れ、僕ら!!!
一方、たくみ達が帰った後の瀬川家。
ピザだのワインだので散らかったテーブルを片付けつつ、機嫌よくにこにこしている瀬川の姿があった。
「アキトさんの元奥さん登場かあ。
…ふーん♪
敵の敵は味方♡さて、どうやってお近づきになろうかな」
その男の笑みに仄かに闇が含まれていることに気づくものはいなかった。
続く
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