オメガバース

【片想い症候群#11】海里の我慢の限界

どれくらいか時間が経った頃。

「飛鳥!!」

バシャバシャと水溜りを踏むのも構わず海里が走ってきた。

「良かった!無事だった!」

そういって人目も憚らずギュッと抱きしめてきた。通りすがりの恋人たちに振り返られる。

濡れそぼる海里の体は冷えていて、指先は少し震えている。

「どっかで事故にでも遭ってるんじゃないかって俺は気が気じゃなくて…」

ごめん、海里。

「飛鳥の携帯から電話来た時、俺は病院からだったらどうしようなんて本当に思って…いや、取り越し苦労で良かった…飛鳥…」

「ごめん…」

こんなに想ってくれる人を一瞬でも裏切ろうとしてしまったのは、僕。

 

『優しすぎるあなた』

 

「それで何があったんだよ」

家について、僕を風呂に入れてあっためて、風呂上がり後にはホットティーまで入れてくれた海里。

僕は迷って迷って、迷ったけれど、やっぱり正直に打ち明けることにした。

「……慶太と会ってたんだ、ごめん…!」

歯を食いしばる。拳が飛んでくることを覚悟したが…何も起きなかった。

しばし間が空いた後。

「……そっか…」

それは哀しみと微笑みの混じった声だった。

ごめん海里、そんな声を出させて。
僕は番失格だ。罪悪感がざわざわと背筋を這い上がった。

「何話したの?」

世間話するような気軽さで聞いてくれる海里。

ごめんね、本当は怒ってるよね。
がっかりしたよね…。

「その…咲也が家出したって聞いて…大変なんだって。それで、色々事情を聞いてたって感じ…」

「咲也さんが?そっか、大変だ。
そりゃ心配だよな、優しいもんな飛鳥は」

僕は無言で首を振った。

違う、そんなんじゃないんだ。僕はただ慶太とのデートに浮かれていただけ。咲也の話は後づけだ。もちろんそっちはそっちで心配だけど。

「他には?なんか話できた?」
「…いや、他は特にないよ。サクッと終わりにしたって感じでさ」

僕は嘘つきだ。番交換しないか?って提案に乗ろうとしたくせに!

なんて、こんな話言える訳がない。手足がさっきから冷たい気がする。逃げたくてたまらない。

それに…

絞り出すように言った。

「……ごめん、海里。せっかくお店予約してくれてたのに」

きっと前まえから色々調べてくれていたんだろう海里を裏切ってしまった。

「ああ、良いよ全然。また日を改めれば良いだけだし」

ニコってした海里の笑顔が、心底つらい…。

「あ、そういえば大事な話って…何?」
「まあ、大したことじゃないんだ。もったいぶっただけでさ。…忘れて」

「…ホントに?」
「ああ」

僕には言う気なくしちゃったのかな。
何だったんだろう。

手が震える…立つ瀬がない、そんな感じ。僕のせいなんだけど。

「…怒ってるよね」
「別に。俺は思いのほか傷が浅くて良かったって思ってるよ」
「…?」

海里は僕を強く抱きしめて言った。

「…慶太にそのまま着いてってどっか行かないでくれてよかった。それだけ」

 

 

 

その晩、いつも通り海里は激しく僕を抱いた。
慶太がらみのときはいつもそうする様に。

僕は文句なんか言わない。これが海里なりのきっと苛立ちと哀しみの発散方法だったから。

気づけば深夜2時を回っていた。

「…飛鳥、大丈夫」

暗闇の中の海里は僕よりずっと歳上の人みたいだ。大人っぽくて男らしい。

「…ん、うん…」
「今日はこのまま寝れば」
「うん…」

腕枕されながら目を閉じる。海里はあったかい。スポーツやってた腕に包まれるのは安心感もあって…

「…咲也、家出なんてして大丈夫なのかな。今どこで何してるんだろう。まさか…まさか何か変な気起こしたりしないよね…?」

一体どんなに辛いことがあったっていうの?もう何年も会えていない親友。慶太こそ取られちゃったけど、それでも咲也、君に今すごく逢いたいよ…。

「さあなあ…まあでも咲也さんには慶太がいる。大丈夫さ」
「…そっか…そうだよね…咲也…」

僕はグッサリ傷つきながらも、やっぱり咲也が気になっていた。

ああ、だけど咲也。どうしているんだろう。
どうにか会いに行く方法はないのだろうか…。

でも僕らはお互いの連絡先をもう知らない。

なんて、グルグル考えていたら。
ふいに海里が苦笑した。

「?」
「飛鳥さあ、何とかして咲也さんに会いに行こうと思ってるんだろ…そんな顔してる」

「分かるの?」
「分かる。飛鳥歴長いから俺」

心底ドキッとした。

「じゃあさ、俺も一緒に行くよ。咲也さんとこ、一緒に行こう。咲也さんに会わせてもらえる様、慶太に頼んでやるよ」
「良いの!?海里」

「ああ。だけどその代わり…
慶太にはもう2度とふたりで会わない、そう誓ってくれないか」

「!」

真剣な瞳が僕をじっと捉える。

そんな…そんな…

「この辺に住んでたらまた慶太に出くわしそうだ。引越しも考えよう」

「な、何言って…」

海里は体勢を変えて僕に覆い被さる様にして言った。

「出来るよな?飛鳥。俺たちは番だろ?
その俺が嫌だって言ってるんだ…俺を選んでくれるよな?」

「……」

ドキンドキンと心臓がなる。慶太の横顔を思い出す。今日だって何年ぶりかに会えたって言うのに…

「何で即答してくれないんだよ!飛鳥!!」

 

初めて海里は僕に声を荒げた。

 

 

続く

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