翌朝。昨日の余韻で気怠いままリビングへ行くと、海里が大きいバッグを持って何やらガサゴソやっていた。
んん・・?
「あーすか!おはよう、俺もう出るからね」
「・・あー!そうか、今日からゼミの合宿って言ってたもんね」
「忘れてたのかよ。もっと寂しがって欲しいもんだな」
苦笑した海里。ごめんごめんと手を合わせた。
「そ、戻りは明後日。・・じゃあさ、今週末は?さすがに何の日か覚えてるよな?」
「番になった記念日でディナーでしょ。それは大丈夫!」
なら良かった、と海里は僕を抱きしめキスをした。このお祝いをするのも、もう5回目か。
「・・大事な話があるから」
「今教えてよ」
「それは無理」
「ケチ」
じゃれつつも、僕は頭の片隅で慶太たちも5回目のお祝いするのかな、なんて考えていた。
『記念日はあなたと』
名残惜しそうにキスを残して行ってしまった海里を見送り、僕は1人部屋で遅めの朝食でも取ることにした。
サービス業だからね、今日は平日だけど休み。
朝食代わりにホットケーキを焼き、一息ついたところで部屋の掃除でもやってしまうことにした。
海里の部屋を掃除していく。そういえば大事な話って何なんだろう?何かヒントあるかな・・?
悪戯心で部屋をちらちら覗いていくと、何やら手紙の束を発見した。
どうする?いや、見て言い訳ないんだけど。正直ものすごく気になる。
宛先は誰・・?そう思って確認すると、宛先は僕だった。
え、もらってないけど・・
出す予定のない手紙ってことだったのかな?
何だろう。心底気になる。ひょっとして僕への呪詛でも書かれているのだろうか・・
ドキドキソワソワして、中の手紙を1枚だけ取り出しチラッと薄目で見た。薄目に意味はないけどさ。
中は紛れもなく海里の字だった。
『飛鳥。俺の大切な人へ。
番になれたこと、本当に感謝してる。俺に人を愛する喜びを教えてくれたのは飛鳥だった。
でもあの日の行動が本当に正しかったのか、今でも迷うことがある。俺を許してくれ飛鳥。
でも飛鳥が番じゃない人生などやっぱり考えられない。一生をかけて幸せにするから。
もしも俺たちに寿命なんてなければな。そしたらずっと2人でいられるのに』
海里はこんな風に普段ハッキリ言わないから、僕は思わず頬がか〜っと熱くなってしまった。
でも俺を許してって?慶太と咲也が番ってるあのリビングに僕を引き合わせてしまったこと?
そんな、海里のせいじゃないのに。
ふ・・と僕はさみしく微笑んだ。
何もなかったかのように手紙をそっと戻した。
・・もう慶太のことは良い加減忘れなくちゃ。
僕が知らないところでこんな些細な過去を引き摺っては落ち込んでいたんだろう海里。ひっそり想いを重ねてくれていた海里。
彼のためにも。
そうしてやってきた週末のディナーの日。その日は仕事先の花屋さんが混んでてなかなか上がれず、海里に連絡も出来ないまま集合時間が迫っていた。
唐突に季節モノのフェアを始めた店を恨む・・!
あと20分、という所でちょうど手がすいたので、スマホを取り出そうとしたら・・
「すみません」
艶のある良い声が後ろで聞こえた。
ハッとして振り返る。やばっお客さんまだいた!?
「あ、はい!すみませ・・」
呆然と立ちすくんだ。
その人は洒落たスーツに身を包んで、髪を撫で上げている。精悍さに磨きをかけてさらに立派な男性へと成長したその人・・。
慶太だった。
向こうも目を丸くしている。
「飛鳥!久しぶり」
やあと手を挙げたその大きな手にドキッとしたけれど、その薬指にキラリと光る指輪の輝きが僕を即座に打ちのめした。
慶太が選んだ花をレジで包む。白とピンク、水色の淡い色合い。誰宛?だなんて聞かなくても分かる。この儚げない色合いが似合うのは、あの美少年しかいない。
やっぱり5年目のお祝いなんだろうなと落ち込む。それを僕が包むってどんな因果?神様は意地悪だ。僕にだけ。
とにかく余計な惚気なんか聞きたくなくて、無言でレジをこなした。
慶太にはいつまでもここにいて欲しい一方、早く帰って欲しかった。
「その後どう?海里とは。順調?」
「う、うん・・まあね」
「ま、ウチも順調だよ。子供3人いるし」
「・・・!!!」
知らなかった、海里はそんなこと教えてくれなかった。
やめて、もうやめて。ショック過ぎて何も考えられない。こんなところでみっともなく泣きたくないんだ。
震える脚。極力普通に聞こえる様にふうんと言った。
「・・なーんて、嘘だよ大ウソ!順調どころじゃねえよ。ヤバいんだよウチ。咲也が家出してすんげー遠方の別荘に逃げ込んじゃってさあ。
明日、朝イチで花束もって迎えにいく予定。・・でも会ってくれるかな、俺とは」
はは・・と困り顔で笑う慶太。嘘だと知って浮上した心。
慶太にキュンとしていた。かわいくて愛しくて・・しょうがなかった!
・・だけどうまく行っていないらしい2人。
『咲也さんとは順調らしいよ』
そう海里は言っていたのに。
「ってかさ、どう?飛鳥。今日これから暇だったらメシ付き合ってくんない?久しぶりに会えて嬉しいし」
ドキッとした。心揺れる。
ちょうど着信が鳴る、チラとポケットの中を確認したらタイミング悪く海里。
時間を確認する。
そうだ、もう時間過ぎてるんだ。行かなきゃ。
きっと心配してる。
でも慶太が僕を食事に誘ってくれたことなんか今までなくて・・それにこれから先もお誘いなんてあるか分からない。
「飛鳥?」
脳裏に浮かんだ海里からの手紙。あんなに僕を愛してくれてる海里。
「・・良いよ、今日は空いてる」
『あーすか!』いつも嬉しそうに僕をそう呼ぶ海里が脳裏を過ぎった。
続く

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