こうして僕は海里とやけっぱちに番になった。
また番になった咲也と慶太は、その後すぐに遠方に転校していった。
咲也の強い要望と、慶太はそれに付き合う形とで。慶太の引越し・転校にかかる費用は、咲也の家から出たらしい。
僕らは最後までマトモに顔を合わせることも話すこともなかった。
大好きだった親友も、幼馴染・・いや初恋の人も両方失った。
ガランと空いた学校の席を見つめては無性に寂しくて虚しい気持ちでポロリと泣いていた僕。
その肩を抱き、ずっとそばに寄り添って支えてくれたのは海里だった。
「きっとそのうち忘れられるさ」
優しくそう言う海里の胸に、僕は頭を預けて目を閉じた。
『終わらない番生活』
そんな苦い思い出に染まった高校生活。
でも早いものであれから5年。
僕と海里は今、同棲している。海里は難関大に入り、僕は一足先に社会人。大学には行かずにお花屋さんに就職した。花は良い、傷ついた心を癒してくれる。
一緒に住んでみれば海里は本当にやさしい子だった。年下なのが信じられないくらいしっかりしてて僕をいつも守ろうとしてくれた。
いつだったか僕に変質的なストーカーが湧いた時も、頼りにならない警察なんかよりずっと頼もしかった。寝ずの番で犯人を捕まえてくれたんだ。あのとき海里はまだ高校生だったっけ。
『飛鳥、これあげる』
それによくひまわりの花をくれた。あなただけを見つめますって意味。
慶太への片想いに傷ついていた僕を、海里はよく知っていたから?
僕以外の誰にもわき目をふらない。本当に僕だけを見つめてくれる。
海里は愛されることがどういうことか教えてくれる。きっとこの手を取って良かったんだ。
事実そう思う部分もあったし・・そう思い込もうとしていたのかもしれない。
僕らは順調だったと思う。表向きは。
ある日のこと。
「じゃあ飛鳥、行ってくる。・・今日は晩飯、いらないから」
「分かった」
朝の玄関先。ズキンと痛む胸を抑えて、行ってらっしゃいとキスをして送り出した。
パタンと玄関扉が閉まれば1人ぼっちの中で、寂しくため息を吐いた。
海里が今日遅い理由は『慶太』だから・・。
慶太と海里はごく稀に会うことがある。まあ家族だから当たり前だけど。
大学の友達との集まりだのサークルだの、どこへでも僕を連れて行きたがる海里だったけど、慶太との食事会にだけは僕を連れて行かない。
『・・慶太に会いたい?』
以前そうポツリと聞かれ、『全然。もう未練とかないし』そう意地を張って答えていた。
僕が慶太を気にするそぶりをすると、海里が傷つくのはよく分かっていた。
その後僕も出勤した。お客さんに頼まれてブーケを作るのも大分慣れた。今日作ったのはプロポーズ用の花束。
気持ちが伝わる花束として、評判はまあまあ。
ネットを見て来てくれるお客さんもいる。
何でそんなこと出来るかというと、僕自身の『たいせつな人』をいつもイメージして作っているから。
今、あの人は何をしてるんだろう・・。
その日遅く、海里は帰ってきた。
「・・どう?慶太、元気だった?」
「ああ、まあ変わらずだよ。咲也さんの会社で後とりとして武者修行やってるらしいけど、それが大変なんだって」
そっかあと笑っては見せた。
慶太がどんどん手が届かない存在になっていく。
僕が決して与えてあげられない名誉。それを与えられる咲也。それを手にした慶太。
それらがどうしようもなく寂しい。
キッチンのお皿だのボウルだのを片付けるフリをして背を向けた。追ってきた海里。
「仕事で疲れてるんだろ、良いよ。俺やるから」
あ、という間もなく僕から皿類を取り上げ脇に置いた。そして。
「・・咲也さんとは順調みたいだよ」
僕を後ろから抱きしめ、そう囁いた。
海里はこうしていつも釘をさす。
その日の夜、ベッドでの海里は少し変だった。慶太に会った日の海里はいつもよりも荒く、激しいけれど、今日はいつもに増してそうだった。
「どうしたの、海里」
荒い息で汗を滴らせたまま海里は言った。
「・・俺たちの子供、出来ると良いなって改めて思ってさ」
僕のお腹をそっと撫でられ、ギクッとする。
「・・僕も楽しみにしてるんだけどね・・」
「中々出来にくい体質なんだもんな、仕方ないよ。気長に待とうな、飛鳥」
「その・・待たせてごめんね、本当・・」
「良いよ、俺はいつまでも待つ。飛鳥との子なら」
海里はやさしい。
でも優しければ優しいほど僕は苦しかった。
妊娠しないのは、僕がこっそり薬を飲んで阻止しているからだった。頭痛薬と偽って飲んでいる。今日もベッド脇のゴミ箱にそっと捨ててある薬の包み紙・・。
何でかって、そんな理由ひとつに決まってる。
「・・海里、愛してる・・」
僕はそう言ってキスをした。
内心バツが悪くなると僕はそうやってよく誤魔化した。
そう言えば海里は喜んでくれて、話を逸らす事ができる・・。
『咲也さんとは順調みたいだよ』
今でもばかみたいに慶太を待つ僕の心に、海里の声が虚しく響いた。
続く

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