※飛鳥視点です
迷っている間にあっという間にキスは深くなり、押し倒されハッとした。抵抗したものの、闇の中グッと両手を掴まれて身動きが取れない。
「や、やめて・・」
辞めない海里に怖くなる。寝巻きに入り込む手は止まることを知らない。海里、いつの間にこんな大人になっちゃったの?
僕に乗り上げ、寝巻きのTシャツを脱いだ海里。
月明かりのなか浮かぶ鍛えられた体。・・それに慶太の面影。やっぱり2人は似ている。
「良いじゃん、このまま番になろうよ」
慶太に似た声でその男は言う。
「や、やだ!!」
「俺は飛鳥が好きだよ」
慶太に言われたかった台詞に、思わず涙がにじむ。
グイと起こされる。暴れたところで虚しく首にかぶりつかれた。
「番になれば気持ちもついてくるって!」
焦れた様な声。首筋に感じるあつい吐息。その時浮かんだのは慶太の笑顔で・・!
「やだあああ!!慶太あ!!!」
その瞬間、ピタと止まった海里。
・・?
それからちょっとの間を置いて、僕を離した。
「・・あーあ。別の男の名前を必死に呼んでる奴を無理に番にするって、出来ねえな俺には・・」
そのままごろんと僕の横に寝転んだ。
「今日、飛鳥にヒートがうまい具合に来てくれば良かったのに。そしたらなし崩しに出来たか?・・なあ飛鳥」
薄暗闇の中、無機質な声がポツと呟いた。
僕の手をそっと握ってきた海里の指先は少し冷
たかった。
「俺は慶太とは違う」
海里は寂しそうに笑った。その言葉の意味を、その時の僕は正しく理解できないでいた。
『狙い通り』
ざわつく思いを抱えたまま、海里と一緒に登校した。お互いなんとなく無言、なんとなく距離を空けながら。
「・・じゃあね飛鳥。また教室、昼に迎えに行くから」
そう言って立ち去っていく後ろ姿を、僕は何とも言えない寂しい気持ちでばいばいと見送った。
教室に来てみれば、咲也は休みのようだった。
少しホッとしてしまいつつ、ふいに嫌な予感がした。隣のクラスまで行って確認してみれば、慶太も今日は休んでいると同級生が教えてくれた。
そしてこんな余計な情報も・・。
「そう言えば昨日、咲也が具合悪いってことで家まで送って行くって言ってたな。心配だから泊まる?だのなんだのって慶太がやいやい言ってたわ」
さああ・・っと血の気が引いていくのを感じた。きっとふたりは今一緒だ。
昨日の咲也と慶太を思い出す。仲睦まじく、まるで恋人同士の様で・・
そんなふたりが次にたどり着く境地なんて決まってる。つが・・
そう思ったら急激に吐き気が込み上げてきて、僕はトイレに駆け込んだ。
ゲホゲホと気分が悪くてたまらない。水を流し続けてごまかした。誰にもどうしたの?なんて聞かれたくなかった。
言葉にしたら本当に現実になってしまいそうで・・
僕は怖くてこわくて堪らなかった。
こんな時、海里がいたらずっと背中をさすってくれただろう。僕が困った時は飛んで来てくれる慶太によく似た別の男の子、海里・・。
その後どうしても気分がすぐれず、そのまま午前中の授業は保健室で休んでしまった。
何かしなきゃいけないのに身体が動かない。心が空っぽだった。いや、慶太と咲也が番になったなんて決まった訳じゃないけど、でもさ・・
鬱々としていると、ふいに誰かがカーテンを開けた。
「・・飛鳥?」
心配そうに現れた海里。
「どうしたんだよ、そんな蒼い顔して・・」
まるで自分ごとの様に辛そうな顔をした海里。
僕はそっと瞳を伏せた。
慶太だったら良かったのに、なんて考えた自分が嫌いだったから。
僕から話を聞いた海里は、こう言った。
「はあ、そんなことが・・慶太、俺に連絡寄越さないからなあ」
自分の携帯を指先でトントンと叩いて思案顔だ。
ふいにギュッと抱きしめてきた。
「じゃあさ・・学校は早退しちゃってこれから俺んち来ない?母さんも昼は仕事でいないしな。
一緒に慶太、待っててやるよ。
きっと咲也さんとは何もないさ。な?飛鳥・・」
優しい手が僕の頭を撫でる。
寂しくて不安で仕方なかった僕はその提案に乗った。
だけど・・海里の家で、居間の扉を開けた時。僕らは見てしまった。
そこに広がっていた惨状とも言うべき情事の後を。
よっぽどだったのか?疲れて眠っている咲也・・。
「海里、お前なんで!!飛鳥なんか連れて・・!」
驚いた慶太もまた、服を着ていなかった。
咲也のうなじにはくっきりと噛み跡。
今にも倒れそうな僕の肩を、ギュッと強く抱いた海里。その腕にしがみついた。
ごめん、僕なんかがふたりの邪魔をして。
せめてそう言いたかったのに、僕は何も言えなかった。
海里の手を引いてパッとその家を後にした。僕は馬鹿だ。僕が慶太のことを考えてる時間、慶太はずっと咲也を抱いていた。
誰もいない公園。僕は崩れるようにして泣いた。そんな僕をベンチに座らせた海里。
「飛鳥・・俺がずっとそばにいるから」
「・・・」
「慶太はもう・・さすがに諦めような?」
仕方なく僕はうなだれる様に頷いた。
「飛鳥は俺がずっと守るから」
小さく頷いた。『いや』だの『でも』だの抵抗する気力は残っていなかった。脳裏に浮かぶのはさっきのふたり。
「・・さ、良い子だからうなじを出して、飛鳥」
優しく諭すように言われて、僕は言われるがままネクタイを緩めてうなじを差し出した。
色んなことがもうどうでも良かった。
「大切にするよ」
心底嬉しそうな声のあと、鋭い痛みが走った。
慶太、ずっと好きでした。
続く

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