※今回も咲也視点です。
「慶太の・・ネガティブキャンペーン・・?」
キョトンとして尋ねてしまった僕に、海里くんはニコって笑って言った。
「ええそうです。
慶太は飛鳥がタイプじゃない、
裏で悪口すら言っている、
とにかく悪い男だ、
優しい飛鳥に合わないと思う・・。
そう言ってもらえたら僕はすごく助かるんです」
目が笑ってるようで笑っていない。
ぞわ、とした。
「お前!!」
さすがに掴みかかった慶太。
「嘘だよ、冗談を間に受けるな兄貴」
くは、と笑い出した海里くん。
・・それはいつも通りのにこやかな海里くんだったけれど・・。
でも僕は、海里くんのあの台詞。結構本気で言っていたんじゃないかと思うんだ。
3人でファミレスを出て、何となくアテもなくプラプラ歩き出した。
食事終わりに海里くんが言った言葉を思い出していた。
『なーんてね!冗談ですよ!
ただ飛鳥と1番長くいる咲也さんに、僕の想いを知っておいて欲しかったんです。それだけで十分ですから♪』
本当に・・?それだけ?
チラ、と隣でやいやい他愛もない話をする兄弟を見上げた。
精悍さの漂うふたり。
2人とも頭は良いんだけど、慶太と海里くんの性質はどこか少し違う気がする・・。
似ている様で似ていない兄弟。
「あ、兄貴。俺あの店見たい」
そう言って服屋さんへとサッと消えていこうとする海里くん。その背中を待ってよと慌てて追った。
「・・海里の奴、どこ行ったんだよ。ごめんねえ、なんかはぐれたみたい。携帯も繋がらないし」
どことなく嬉しそうな慶太。
「えっうん・・まあ、良いよ・・」
人混みの街中で、海里くんと僕らははぐれてしまったみたいだった。人手も多いしね、それはしょうがないんだけど・・。
「咲也」
その声音にドキ、としてしまった。実は声の良い慶太。
「な、なに?」
服屋さんの服を見てるフリしながら適当に返事した。
「海里は適当に家帰るだろうからさあ。適当にもうちょっとプラプラしてこうよ。ホラ、飛鳥の誕生日が近いだろ?一緒にプレゼント選んでよ」
「えぇっ・・う、うん・・良いよ飛鳥のためだったら・・」
「やった!!!」
ものすごく嬉しそうな慶太が、ちょこっと眩しく見えた気がして、そんな雑念を振り払った。
ごめん飛鳥、これはデートとかじゃないんだ、本当・・!!!
アレコレと色んなショップを見て回る。
「慶太。こういうのどう?」
「うーん、飛鳥だとこの色は多分好みじゃないと思う」
慶太は意外と飛鳥のことをよく分かっているらしかった。僕はそれが嬉しかった。
「さっすがあ〜!幼馴染、分かってる〜!」
「飛鳥はただの幼馴染、だよ」
チラと僕を見て言った慶太。
・・そんな言い方しなくたって良いじゃないか・・。僕が傷ついていた。
「そういう言い方良くないと思うな〜」
わざと茶化して言った。
「だって俺が知りたいのは咲也の方だもん」
耳元でそうハッキリ言われて、僕は手に持っていたTシャツをバサと落とした。
その後、何とかプレゼントは買えたものの僕は調子悪くしてしまい・・ベンチに座りこんでしまっていた。
「大丈夫?咲也・・」
すごく心配そうな慶太。背中をそっとさすられて、そのたびぶわ、ぶわりと身体が震えた。
・・ヒートだ。くそ、なんでこんなタイミングで・・。
「咲也?水、飲んで」
慶太の一言ひと言が、鼓膜を震わせる。
「ん・・ありがと」
渡してくれたペットボトルの水を飲もうとして溢した水は、僕の喉を伝って落ちた。
「・・溢れてんじゃん」
悪戯にははと笑った慶太の表情に、キュンとしてしまっていた。
「・・ヒートが・・来たみたいで・・慶太はその、大丈夫・・?」
「んー?うん、フェロモンの拮抗薬普段から飲んでるから別に平気だよ」
カラっと笑って言った。そっか・・なら良かった・・。僕のフェロモンで親友の好きな人を誘惑とか、あり得ないし・・。
「かばん・・抑制剤、取って」
「ん。ほら、口開けて。飲ましてやるから」
慶太が袋を破って僕の口に含ませてくれた。
抑制剤は錠剤だ。5粒一気に飲めば、ヒートの興奮はすぐに抑えられる。もう大丈夫だ・・。
そのはずだったのに。
時間が経てばたつほど、僕の頭はグラグラしていった。
「やば・・もう、帰る・・」
何だかへなへなとしてうまく歩けない僕は、慶太に捕まって歩いた。逞しい腕が僕を支えていた。
「タクシー・・」
「この辺タクシー来ねえよ咲也。・・ちょっとあそこのカラオケで休んでけば?」
バタンと後ろ手に扉を閉めた。ふ、と照明の落された室内。
「なに・・」
「これで2人っきりだ、咲也」
暗闇に響く声に、僕の中で何かがうねった。
続く

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