※海里視点です。
やや虚を突かれた後、兄貴は言った。
「・・お前、飛鳥が好きなのか」
「まあね」
「全然、わからなかったわ」
「クソ鈍感だな」
それは言い過ぎだろと兄貴は笑った。頑張れよとも。
焦る気配は全くない。飛鳥に全く気がないことに、俺は内心胸を撫で下ろす。分かっていても少しドキドキしたんだ。
兄貴が飛鳥の想いに気づいているのかどうか分からないが、もしもうっすらとでも気づいているのなら。
『海里に押し付ければ、これで肩の荷が降りる』・・それくらい思ってるかもしれないぜ、なあ。飛鳥。
翌日、朝の教室で咲也さんを捕まえた。
飛鳥は朝弱くて結構ギリギリに教室に来るので助かっていた。
最初俺を見てビクと怯んだ咲也さん。兄貴が来たのかと一瞬思ったのだろう。朝からすまない。でも俺は止まる気はない。
敢えて内緒話の様にコソコソと話し掛けた。良い匂いがしたが、別に俺にはどうってことない。
「すみません、実は飛鳥のことで相談があって・・あの、ここじゃ言いづらいので良かったらLINE教えてもらえませんか?」
「えっどうしたの」
根が真面目でお人好しな咲也さんは心配顔だ。そこにつけ込む俺は、まあまあ嫌な奴なんだろう。
「その・・LINEで詳しく言いますから・・」
手をあわせてお願いしたら、もちろん良いよと連絡先を教えてくれた。
学校中の色んな奴が知りたがる、咲也さんの連絡先。俺はゲットするとすぐに教室を立ち去った。
昼休み。俺はタタと携帯を打った。宛先は咲也さんだ。
『飛鳥から聞いてるかもしれませんが・・実はこの間飛鳥に告白して振られてしまって。
でも諦めたくないんです』
すぐに既読がついたが、返信はすぐには来なかった。どう立ち回るべきか悩んでいるのだろう。
飛鳥が兄貴を好きなことくらい、当然知っているだろうしな。でも脈ナシだろうなっていうのも分かるだろ。
『俺は飛鳥が本当に好きなんです!俺が幸せにしたいって思ってます』
畳み掛ける。打ったメッセージは本心だったし。
咲也さんに『弟くん、飛鳥に良いんじゃない・・?』って思わせなくてはいけない。
『咲也さん、お願いします!頼れるのはやっぱり咲也さんなんです!』
そしたら『分かった、良いよ!がんばってね!』と来た。
よし、そう来なくっちゃな。
『だから今度、直接休みの日にどこかで会って相談に乗ってほしいんです。こう、メッセージだとまどろっこしくて迷惑かけちゃうし』
『良いよ〜いつにする?』
ラリーは続く。日程まで詰めてから。
『あ、あと。兄も僕の恋の相談に乗ってくれるって言ってて!その日は兄も来ますのでよろしくお願いします』
って無邪気に打った。何も知らない振りして。
画面の向こうで多分、咲也さんは頭抱えてるだろうなって鮮明なイメージが浮かんだが。
振った相手に会うのイヤすぎる・・って思ってるだろうけども、そうもハッキリ言えないだろう。
『オッケー、了解!』
って多分絞り出しただろうメッセージを受信し、俺はこのLINE戦に勝利したのだった。
重ね重ね本当にすまない、咲也さん。
こうして早々に約束を取り付けた俺。
授業が終わって、放課後。
深呼吸して、ドキドキしながら上級生のクラスに向かった。
「あーすか!一緒に帰ろ」
すまし顔で飛鳥に絡みに行った。
「あ、うん」
ちょっと気まずそうな飛鳥は、さっと視線を逸らした。ズキンと胸が痛む。
そんな顔するなよ。
俺だって飛鳥に振られたばっかで辛いんだ。
平気な顔してこんな能天気に話し掛けてると思うなよ。俺だって本音じゃ泣きそうだ。
咲也さんは、放課後に委員だの部活だのの集まりがあるので不在だった。
ふたり並んで歩く、放課後の帰り道。
「慶太さ・・昨日どうだった?家で・・」
「・・アイツ咲也さんに振られた癖に、咲也しかいない、諦める気はないって家でも言ってたよ。全然へこんでなかったな、ヤル気出しちゃってたよ」
はあと肩を落とした飛鳥。
「そっか・・」
そんなに消沈するなよ、飛鳥。悲しくなるだろ。
「・・ちなみに飛鳥とかは?どう思ってんの?って兄貴に俺聞いてみたんだけどさ」
「え!?う、うん!?」
ぱっと顔を上げた飛鳥。悪しからず思ってる、くらい聞きたいって顔だった。その瞳がわずかに煌めくのにすごく苛々した。
「全然興味ないってさ。海里、お前飛鳥どう?って逆に聞かれちった」
「・・!!!そんな・・そんな・・!」
ダッと走り去って行った飛鳥の背中を、俺はひとり見送った。
夕暮れに染まる街中で、それは随分ポツンと淋しそうに見えた。
飛鳥の心の中に空洞が広がっていく。
それが少しだけ嬉しい俺は、やっぱり嫌な奴だろうか。
多少嘘をついてでも、飛鳥の心の中に巣食っている慶太がいなくなれば良いと思った。
続く

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