僕は田島 飛鳥。平凡顔で取り立てて取り柄のないオメガ。
一方、幼馴染の慶太はアルファでカッコ良くて、頭が良くて、優しくて。
小さい時から僕の理想の王子様だった。
今は懐かしい、幼稚園の時のあの日。
「俺ね、大きくなったら飛鳥と番になるんだ!」
「本当!?楽しみにしてるから!」
なんて今思えば他愛もない発言を真に受けて、僕は長年片想いしてきた。
あれから時が経ち、高校2年生となった僕ら。
慶太は立派なアルファへと成長した。カッコ良いのも頭が良いのも優しいのも、昔のまま。
だけど変わったこともある。
それは慶太に野心が芽生えて、のしあがりたいみたいな願望を持つ様になったこと・・。
いや、野心や目標を持つのは別に良いと思う。
だけど僕には高校で知り合った親友・咲也(さくや)がいて、彼は大企業の社長の1人息子。ついでにオメガで美少年で・・
僕は毎日、気が気じゃない。
『片想い症候群』
朝の高校の教室。
目を背けようとしてもイヤでも目に入る、いつもの光景にゲンナリする。
・・となりのクラスのハズの慶太が、わざわざうちのクラスまで来て咲也にずっとあれこれ話しかけてるってやつ。
男らしく精悍な顔つきの慶太が、本当に楽しそうに咲也に話しかけている。
好きで好きでしょうがないって感じなのが、見てても伝わってきてしまう。
僕はそんな慶太を見ていると、胸が押しつぶされそうになるんだ。
しかも咲也の机には、クッキーだのコーヒーだの。朝に弱い咲也のために、せっせと差し入も忘れないマメな慶太・・。
慶太、僕だって朝苦手だよ。忘れちゃったの?
一方、困り顔の咲也。登校してきた僕を見つけるなり、ホッと助かった!という顔をした。
「あっ飛鳥来た!ふたりで職員室行かなきゃなんだ、じゃあね!」
強引に話を切り上げてこっちに駆けてきた咲也。残念そうな慶太・・。
ぶっちゃけ用事のない職員室に2人向かって歩き出す。
「・・大変だねえ咲也」
「いや・・なんかごめんね飛鳥。本当・・」
心底申し訳なさそうな咲也。僕が慶太に片想いしてること、咲也も知っている。
「僕が慶太になびくことは絶対ないからね!安心してよ!」
声を落としてこしょこしょと言ってきた。
ふいに近づかれてドキッとした。
色が白くて栗色の髪はツヤツヤとして、目鼻立ちが最高に整ってて何か良い匂いがする、咲也。
咲也が慶太になびく気配がないことが唯一の救い。こんな美少年がライバルなんて、無理すぎる。
「ってかさ工藤先輩、最近どう?」
「全然。・・返信こないし」
そう、咲也には咲也で片想いしてるアルファの先輩がいるのだ。こんな美少年からのアタックを信じられないことに先輩はかわしているらしい。
要はみんな片想い。ハート付の矢印は飛び交うものの、どれも一方通行。
「あ、飛鳥。・・海里くん」
おっともう1人、廊下の向こうから片想い症候群の子が現れた。
僕らを見るなりブンブンと手を振ってきたハンサムくん。背が高くてスポーツマンで、爽やかイケメンだった。
海里は慶太の弟で高1。雰囲気はよく似ているけれど、ふたりはやっぱり違っている。
「飛鳥!咲也さんも、おはようございます」
僕らのところに来るなり、ニコニコ言った。
海里は昔から僕に懐いてくれて、よく一緒に遊んだ。
「どこ行くんですか?俺も途中まで一緒に行こうっと」
「職員室」
「何をしに?」
「まあ用はないんだけどね」
「えっどういうことですか?」
まあ良いじゃんと適当に誤魔化して3人ダラダラ歩き出す。
ここんところ、前に増してしょっちゅう僕んところに遊びに来る海里。
ぶっちゃけ咲也狙いなんじゃないかと、僕は睨んでいるのだ。
海里と咲也がくっつくなら、僕は応援したい気持ち。それで慶太と僕がくっつけば・・
なんて能天気なことを考えていた。
だけど・・
僕はたまたま見てしまったのだ。慶太が咲也に告白するところを。
ゴミを捨てに行く途中。学校の中庭で・・
「咲也、俺の番になってくれ」
「・・っ君とは番になれない、ごめん!」
そう言って走り去ろうとした咲也。
「俺、咲也じゃなきゃダメなんだ!諦めないから!」
咲也の背中に向かって吠えた慶太。
その声音の必死さに、僕は自分が慶太の心の中に入りこむ余地はないんだと理解した。
こんなに、こんなに好きなのに・・。
僕の胸は張り裂けてしまった。
その日。本当に本当に申し訳なさそうに、慶太から告白されたと泣きじゃくりながら報告してくれた咲也。
「本当、ごめんね、飛鳥。僕もう慶太と口きかない・・」
「ん・・普通にしてくれたら良いよ!気まずいかもだけど・・咲也、ゴメンね気を使わせて・・」
「ごめん、飛鳥。・・嫌わないで・・」
泣くなよと抱きしめた。咲也はいい奴で、嫌いになんかなりたくなかった。
その日の午後。何だか調子を崩してしまった咲也は早退していった。咲也がいないのでちっとも遊びに来ない慶太・・。
放課後、僕はひとりトボトボと廊下を歩いていた。
「あーすか!」
嬉しそうに現れたのは・・海里。
「・・どしたの?暗い顔して。咲也さんは?」
あ、海里には教えてあげたほうが良いのかもしれない。君の兄がライバルなんだと。まあ知ってるだろうけどさ・・。
こっち来てと海里の袖を掴み、僕は海里を道案内した。
訪れたのは例の中庭。今日みた光景が蘇って死にそうなのに、何故か来てしまった。
「ここでね、今日。慶太が咲也に告白してた」
「ふうん、そうなんだ。結果は?」
「断ってたよ。
・・ショックだよね、でも教えておいた方が良いかなって・・」
「別にショックじゃないよ」
海里、辛いだろうに強がって・・
「飛鳥はショックなんだ?やっぱ・・」
「・・そうだよ、大ショックだよ。本当は今すぐ、消えたいよ!!」
必死に見ないようにしていた感情の蓋が開いて、溢れてしまった。ボロボロと涙がこぼれ落ちた。慶太、慶太!!
「・・そんなに兄貴が良いんだ」
無言で頷いた。そうだよ、慶太が1番好きなんだ、僕の王子様・・。
「でもね、ゴメン。兄貴は咲也さん一直線だから。飛鳥が入る余地はマジでないよ。ウチでも咲也さんの話ばかりだ」
心臓をひと刺し。
「兄貴は野心家なんだ。知ってるだろ?・・咲也さんじゃなきゃダメなんだ。美少年で大企業の社長の一人息子」
ブワと感情が膨れて爆発した。
「分かってるよ!知ってる!!何なんだよ、さっきからアア!!!僕ん中の劣等感を刺激しまくりで楽しいか!?」
「だから!!!」
ビクッとなる。
「・・俺を兄貴の代わりにすれば良いって話。・・飛鳥はちっとも俺の想いに気づかない」
そう言って僕をギュッと抱きしめてきた海里。慶太と同じ匂いがフワと漂って、泣きそうだった。
でも・・
「慶太じゃなきゃダメなんだ、ごめん・・」
そう言って、そっと海里の腕を解いて逃れた。辛そうな海里の瞳。
この時僕は思い知った。
『咲也じゃなきゃダメなんだ』って僕を振った時の慶太の気持ちを、痛いほど。
そして同時に理解した。
僕を好きだと言ってくれた海里が、今どれだけ苦しいかってことも。
それでもやっぱり、その想いには応えられないってことも。
続く

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