「たっくんあのオッサンともう会うの禁止だから!!!!」
僕を車に乗せるやいなや、暁都さんはブチギレた。
全身がワナついている。ヤバい、僕らにとって浮気は地雷だ。
「わ、わかりましたあ!!」
ひっくり返る様な声で僕は返事するしかなかった。
『接近』
「あのオッサン何なの!?」
始まった尋問。僕は出来る限り適当に答えた。
「えっと何か酔っちゃったみたいで・・!?」
「いいや俺は確かに聞いたぜ!人妻が好きとかたくちゃんとか!!おのれえええええ!!!!」
暁都さんはそうしてブチギレ、ダッシュボードにダアン!と拳をやった。
「やっぱさ、あのオッサン君に気があんのよ!旅館貸しとかもそう!!くそおおおおお恩を売りやがってえええ!!!!」
ダアンダアンと連打している。揺れる車内。忘れていた、暁都さんは実は激情型だって・・!
「暁都さん・・アッキー!あっくん!!!ちょっと聞いて!!!今日1つだけ何でも言うこと聞いてあげるから!!!!」
「えっ・・?」
瞬間、ピタと止まった。
「絶対だよ?約束破ったらベランダで腹踊りの刑だよ?」
「うっ・・うん」
「・・なら良し・・」
ベランダで海に向けて腹踊りって刑罰になる・・?ちょっと腑に落ちなかったけど余計なツッコミは辞めておいた。
「あの上司の人はさ・・なんかまあ、ちょっと昔から距離感変なんだよ。やたら近いのはまあそうで・・。
何か仕事、こっちでやるみたいに言ってたけどもう会うことないと思うしさ。僕に暁都さん以上の人はいない。安心してよ、ね?」
むずかしい顔をして聞いてた癖に僕の最後の一言で、我慢し切れずへへと破顔した暁都さんだった。
調子を取り戻した暁都さんに、『さっきのセリフ、もう一回言って』と何度も帰りの車中で言わされた。
『存分に甘えたい』
何でも言うこと一つ聞いてあげるという申し出には、暁都さんにしては随分控えめな回答が来た。
だからその晩は家に帰ってから暁都さんをベタベタに甘やかした。頭洗ってあげたし風呂上がりのドライヤーを当てる。ついでに肩揉みも。
僕に機嫌良くされるがままの暁都さん。
これで機嫌直してくれるならまあ安いモンだ。
「良いねえ〜最高。ん、もう良いよ」
満足そうに背伸びして、それから僕にキスをした。
それから二人でソファに座って晩酌をした。
「・・俺と内緒でさ、絶対あの元上司には会っちゃダメだよ?たっくん良いね?」
はいと頷いた僕の髪を、暁都さんは優しく撫でた。見つめ合ってまたキスをした。
晩酌は続き暁都さんが年代モノのワイン開けてくれて飲んだんだけど、これが結構強くて・・
「うう・・結構酔ってきちゃったよ」
「ん、俺も。・・すごい酔ってる。んで、君も酔ってる。二人とも飲みすぎて・・ってことで今日という日のシメにここはひとつ、さ」
そう言って僕を優しく抱きしめて、そっと押し倒して・・
素直な気持ちを教えてよどうせ明日には忘れるんだからと甘く囁かれて、僕も乗せられて普段言わない様な台詞を言ってしまった。
『好き』って言えば『どれくらい?』。『それ、好き』って言えば『どんな風に?』。甘い尋問が僕の本音を引き出して・・
でもズルいんだ暁都さん。
翌朝テーブル片付けようと思って空き缶拾ってたら、暁都さんのいたあたりに転がってたのはノンアルコールの飲み物ばっかでさ。
俺は酔ってるって言ってたの嘘だった・・!
って気づいてくわ〜っと頭抱えた。
暁都さんに問い詰めたら『いや〜俺を見上げながらのあの台詞はまじで効いたわ。俺って幸せもんだなあ』なんてウットリ意味深に言われて・・!
「ま、これで昨日の件はチャラにしてあげる。俺がシャンプーしてもらうだけで他の男とのデートを許すわけなかろう、甘いね。
んで油断すると奥さんは素直になる〜♪」
なんて勝ち誇った顔。
く、くやしい〜!
それから数日後。暁都さんと家にいた時。
ピンポンとインターホンが鳴った。
「いつものミネラルウォーター来たか。たっくん運ぶの手伝ってよ」
一緒に行って、はあいと玄関の扉を開ける。
相手の姿に唖然とした。
「どうも♪近くに引っ越してきたんでご挨拶に来ました」
「あ、あんたこの間の・・」
「瀬川です、よろしく」
いつもに増しておしゃれな服装。慇懃に頭を下げた、元上司。
ビキと凍りつく空気。
「たくちゃん、約束通り来たよ♪」
会社という枠組みがなくなることで、この元上司のストーキング気質が花開いてしまったのだろうか?
年賀状用に住所なんて教えたヘマをした僕を心の中でメチャクチャに呪った。
続く
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