久しぶりに浮気な彼氏シリーズの番外編更新です。
番外編と言えばいつもnoteで販売していますが、今回はサイトで全文公開にしました。基準はきまぐれです。
※主人公くんの名前がないのが不便過ぎて、たくみと命名しました。シレッと暁都がたっくん呼びしますが、暖かく見守ってあげてください。
それではどうぞ!
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『俺、18歳の時に33歳の女と付き合ってたぐらいだもん』
だなんてうっかり口を滑らしたのがマズかったよなあ。
「ホラ暁都さん。ちゃんとさっきの件、白状して?しないと握りつぶすから」
居酒屋の座敷で、俺の前には何だか目が座っている愛しい奥さん。
「ふふ、一体何を握りつぶす気なのやら・・」
「暁都さんが想像してるモノで合ってるよ♡」
うっすら怖い奥さんに、グラスにドボドボと日本酒を注がれウイスキーを足され、おそるべきちゃんぽんが合成されていくのを俺はただただ見つめていた。
「た、たっくん入れ過ぎじゃない?」
「はいどうぞ。これ飲んだら白状してね。拒否したらもっとすごいの混ぜるから」
うふふと笑いつつ、しっかり俺を脅している。
俺が若い頃は年上好きだったって話から余計なことをポロッと喋ってしまったツケは、払わず逃げるのは無理そうだった。
仕方なしに目の前のちゃんぽん酒をグイと飲む。獰猛なアルコールが俺の喉を焼いた。
『宗旨変え』
俺たちがよく行く行きつけのバー。そこがたまたまやってなくて、2番目に行くバーもたまたま今日は休みで、なんの気なしに訪れた安めの居酒屋で。
俺は安ワインを飲み、奥さんにウザ絡みをし、仕事が一区切りついてたこともあって何か開放的な気持ちになっていた。
それに加えて赤提灯並ぶ店内のカジュアルな雰囲気や、隣りの大学生グループが合コンかなんかしてて、その楽しげな笑い声に俺のノリも軽くなり、つい言ってしまったのだ。
「わけえな〜俺も大学生の時はああだったなあ。まあ俺は学生時代は随分年上のオンナと付き合ってたけど」
少し酔いの回った頭でペラペラと余計なことしゃべっちゃった訳。そして尋問をされている、今。
「その人誰?どこで知り合って何で別れたの?18歳と33歳て何?ってか年上の女好きだったんだふ〜〜〜ん全部教えて」
嫉妬でメラメラしてる奥さんは結構かわいい。
でも割とすぐ落ち込むからこの手の話はしたくない。とは言え、言わないとそれはそれで病むしなあ・・。
俺はしぶしぶ話し出した。
「・・そうだなあ・・あれは俺がまだピチピチの大学生だった頃」
「ピチピチって死語だよ」
「俺がおっさんだと忘れてるのか?まあ確かに俺はこんなにハンサムで若く見え・・」
「早くして」
ズバンと突っ込まれるのに苦笑しつつ、俺は諦めて話し出した。
***
「まあ、俺は確かに若い頃は年上が好きだった。
同級生と付き合ったのなんて中学が最後か?
高校からは教育実習の先生だの保健室の先生だのにちょっかいだしたりしてたなあ」
途端に沈みだしたっくんに俺は慌てた。だから言ったじゃん!
「いや、たっくんそんな怒んないで!!時効!時効だから!!男なんて皆そんなモンでしょ、君だって多少身に覚えあるでしょ!?」
慌てて機嫌をとり、たっくんにはワイン
を勧めた。酔って寝てくれると助かる・・!
「まあ、それで。33歳のその例の女性とはバイト先の喫茶店で知り合ったんだ。
俺、大学生の時に一人暮らし始めて喫茶店でバイトしてたんだよな。都内のな。
結構お高めの喫茶だったから結構客層は良かったな。金持ってそうなおばさんとか爺さんとか。ちなみに俺はおひねりを貰ったことがある。
まあそれはさておき。
相手はそこの常連のお客さんだった。
全身オフホワイトみたいな服装で、いつも乳白色のコロンてした石のイヤリングつけてたっけな。顔はまあ普通だったがちょっとだけムチっとしてた。
肩ら辺で切り揃えた髪が綺麗で、あと何かガーゼみたいな透ける薄いシャツ的な何かをいつも羽織ってたのは良く覚えてる。
おっイイじゃんて男の目に止まりやすいタイプ。まあ今の俺ならわかるがあれは全て計算し尽くされてたな」
「名前は?」
たっくんはぐいとワインを煽った。
「え、なんだったっけなあ〜薫だったっけ。いや香織か?なんせ18年くらい前のことだしな。そんな怒んないでよたくみん〜〜〜。
んで、その人は窓際の席でよく文庫本を読んでいた。大人特有の余裕と品の良さとエロさ合間って、年上好きだった俺はその人が気になり出したんだ。オーダーのついでにちょっと世間話したりなんだり・・。
たっくんそんな落ち込まないで!!
いやこの話もう辞めよ!?18年前!!ね!?
え、まだ聞くの?進展のきっかけを吐け?あ、はい・・。
んーとなあ。よく来るお客さんだったし俺もすぐ覚えられてさあ。毎回アイスロイヤルミルクティー頼んでくんだよ。
んである日。また来たからいつもみたいに世間話して。『今日何時まで?』『この後予定あるの?』なんて色々聞かれたんだよな。
その時は何もなくて、いつもの飲み物持ってったら、カサって何か渡されたんだよ。
後で見てねってウフフって感じで言われて・・
どきどきしながら厨房で開けたら、今日何時にどこそこの喫茶で待ってますってメモが書かれてて・・」
机に伏せるたっくん。聞きたくないなら聞かなきゃ良いのに・・!
たっくんは起き上がるとグイグイとワインを煽った。
「飲み過ぎじゃない!?」
「・・良いから続けて」
そんな飲んで大丈夫だっけ?
「・・分かったもうじゃあこの話巻きで終わらせるから!!
まあ行ったらその女性が待ってた訳よ!おつかれ〜って手を振られて。
まあ、その時はたっくんとも出会ってないしさ!?君まだ産まれてないんじゃない!?まあそれはさすがに言い過ぎか!でも俺と出会ってくれてないじゃん!!!!!
まあ、その。アレだよ。俺もイイな〜とふわっと思ってて、相手も気に入ってくれてたからそこからお付き合いしました。
だけど1年くらいかな?まあ色々すれ違って別れました、終わり!以上です!!!」
はあはあとやや荒い息。
だいぶ端折って強引に話を終えた。まあ概ねの筋はあってるし良いだろ。
「すれ違いってなに?」
ジトッと目の座った奥さん。
「ええ?まあ・・アレだよ・・その、アタシと結婚いつするの?って詰められて。俺当時18歳だよ?さすがに決められないし」
「ふうん・・」
「もちろん未練とかないし!キレ〜に終わってもちろん別れた後連絡とか取ってないし!
どう?納得してくれた!?」
たくみの瞳が俺をじっと捉える。
心の真ん中を見透かされているみたいで、俺はどきどきして堪らない。神よ・・!
「わかりました。なら良いでしょう。
・・・。
おえええ」
「おおい大丈夫か!?店員さん!水!水ー!!」
*****
へべれけに酔い潰れた奥さんをどっこいしょと背負い、俺は歩き出した。
見上げた空は星が今日も綺麗だった。たくみと知り合った日もこんな風に星が綺麗だったなと思い出した。
「・・たっくん?平気?」
「・・・」
寝ちゃった様だ。まあ気持ち悪い時は寝ちゃう方が楽だし良いか。
歩きながら俺の脳裏には思い浮かんでいた。オンナとの日々が。
当時何も知らなかった俺は、そのオンナとの情欲に溺れていた。俺の肌をなぞった白くて細い指先。若かったし、俺は今よりもずっと素直だった。運命的な出会いだと信じて疑わなかった。何度もホテルに行った。
たっくん。ごめんな。オンナと別れた理由、俺は嘘をついた。
別れたのは結婚を迫られたからなんかじゃない。
相手が本当はもう結婚していたと知ったからだ。
ズキズキと痛み出した頭。ダメだ、思い出すと俺はこうなる。
たっくん。心ん中で聞いてくれよ。
そのオンナはな、俺に独身だって嘘ついてたんだ。実家だからと頑なにオンナは俺を家に上げてくれず、俺のマンションばっか来てたな。
それがそもそも怪しいと今なら分かるが、18歳のいたいけな俺は相手を信じちまってた。
知った経緯は、たまたまホテルで相手の運転免許証を覗いたことがきっかけだった。
付き合い始めて1年経った頃だった。
彼女が珍しく、ブランドもんの財布をポンと机の上に置きっぱなしにしたままシャワーを浴びに行った。その日は暑くて、コンビニでふたりでアイス買って行ったから。
どれどれ、誰でも凶悪に写る運転免許証の写真をイジってやろうと思って開けた。
写真は間違いなく彼女だったけど、聞いていた名前と全然違っていた。おかしいと思って彼女の小さなハンドバッグ漁ったら、内ポケットからは指輪。ダイヤが嵌っててどうみても結婚指輪だった。
そこからは修羅場さ。
問い詰めたら結婚してると吐いた。でも本当に愛してるのはあなただとも。
聞きたくなかった。
ベッドであんなに俺に純真な愛を囁いておきつつ、別に相手いたんだぜ。信じられるか?
俺は彼女とその場で別れてバイトもすぐに辞めた。
騙されていたとはいえ、結果として人妻に手を出してしまったという過ち。
それが巡り巡って俺の元嫁の浮気につながったってのか?
俺の身に降りかかったのは懲罰だったのか?
まさか・・
そんなことがあって年上好きだったのが年下好きへと変わり、そして女好きから『もう女の子は信じられない』へと変わっていった俺。
沢山傷ついた分、宗旨も随分変わった。
でもそれがあって俺はたくみと知り合えた。
分からんもんだね、運命なんてのは。
もぞもぞとたくみが身じろぎをする。お、起きるか?そこの自販機で水買って飲ますか。
「たっくん?」
「・・んん、暁都さん・・」
愛しい声に頬が緩んだ。
「飲み過ぎだよたくみ。水飲みな」
思わぬところで繋がった道。俺はたくみとこれからも生きていく。
再度星空を見上げる。
思い出してみれば心の中にいくらか残っていた女の顔を、俺は今度こそ完全にかき消した。
『アキ』
俺をさんざんベッドで愛し気にそう呼んだあのオンナ、本当は『美咲』の声も。
end
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