オメガバース

【stardust#14】アルファが運命に逆らうもう一つの方法

※今回は高崎くん視点です。

 

「え、雨宮先生に抑制剤を飲ませようとしてやっぱ辞めたの?そっか・・」

随分沈んだ様子で久しぶりの授業から帰ってきた星屑くん。

筆談によると、どうやら雨宮先生に抑制剤を過剰服用させる線は諦めたらしい。良心の呵責に耐えかねたと。

星屑くんは素直過ぎる。・・あとお人好しが過ぎる。

 

抑制剤の件、その情報を聞いてどうするかは星屑くん次第だとは言ったものの、これでは僕の気がおさまらない。

どうするか。

指先を擦り合わせて思案する。僕が雨宮先生に飲ませてくるか?本人を説得するか?それとも・・

 

「!・・な、なに?」

なんとなく不安気に僕を見つめる星屑くんの視線に気づいて、ぱっと笑顔を作った。

いけない、眉間に皺寄ってたかな。星屑くんを不安にさせてはいけない。

・・僕の昔の番に、少しだけ面影の似たその同級生を。

 

雨宮先生がだめなら、もう片方を当たるしかない。僕は掛けに出ることにした。

 

 

『抑制剤のもう一つの使い方』

 

 

お節介をするべく、鞄を抱えて学校内を歩く。いない、いない・・あ!

「灰原くん!」

廊下を心なしふらりと歩く灰原君を呼び止めた。すらりと背の高い彼。振り返れば整った顔立ち。その色素の薄い綺麗な瞳が僕を少し訝しげに見つめたが。

こっち来てよ星屑君の件でと誘えば、存外スムーズに着いてきてくれた。

 

誰もいない屋上。髪がさらさらと風に揺れる。

「・・何?」

「随分噂になってるよ。・・雨宮先生とホンモノの番になるのかい」

「高崎には関係ない」

「ある。僕の助言のせいで色んな運命が狂ってしまったんだ。元に戻さないといけない。

実はね・・」

 

僕はある種の抑制剤を過剰服用するとオメガのヒートが消失することを伝えた。

自分の父親が医師をやっていて、この情報は本当だとも。
そして星屑くんに教えたところ雨宮先生に飲ませるのは本人の意思で中途で断念したとも。

 

「な、なんてこと・・ッ!」

胸ぐらを掴まれて息が苦しい。その手首を掴んだ。

「ぐ、く・・灰原くんが今心配してるのはどっち?星屑くん?それとも雨宮先生かな?」

挑発の言葉にハッとした瞳。さて、君の本音はどこにあるのか。

「・・どっちもだよ!」

「あっそ。・・良い加減、離してくれ、よ!!」

手首を力づくで剥がして振り払った。荒い息を吐きながら、距離を取る。

「・・こっちはピアニストなんだ、手指は大事にさせてくれよ。

まあそれにさ?結果何も起こってないんだからそう怒らないでよ」

「結果だろ!」
ギリギリと僕を睨みつける灰原くん。

「嫌だなあ、灰原君。そんなに殺意向けないでくれよ。別に僕は君に殺されにきた訳じゃない。

灰原君に良いこと教えてあげようと思って来たんだよ」

「何・・?」

訝しげな瞳で僕を射抜く灰原くん。綺麗な顔してるとどんな表情してても綺麗なんだなとふと思った。

 

「これは星屑くんには教えてないんだけどね?

実は例の抑制剤って、アルファ側が過剰服用しても良いんだ。フェロモンが分からなくなる。2度とね。抑制剤って要はアルファ・オメガの過剰な感覚を削ぎ落とすものなのさ。

悪用を避けるために一般的には知らされていない情報だけどね。でも本当さ。僕の父親が医者だって言っただろ。

灰原くん。運命に逆らうなら今だよ」

「は、何だって・・!?」

驚きで見開かれた瞳。迷っているんだろう、どうするか。

「・・何で俺にそんなこと教えるんだよ」

「この事態への責任があるから」

本当は昔の番に似た星屑くんを守ってやりたいってだけさ。

「星屑くんが好きだったんだろう?その気持ち、忘れたのかい。思い出したくない?」

「・・・」

「運命の2人が結びつく、それもロマンチックだけどさ。あえて運命を破るというのもまた真実の愛という感じがしないかい」

「・・高崎に何が分かる・・!」

苦悶に満ちた顔でそう言った灰原くん。

「分かるさ!僕もオメガだ!

ただね、運命に従うことも、逆らうことも君なら選択出来る。

番が死んでしまった僕には羨ましい話さ!」

「・・・!」

「どうせこの話を星屑くんにしたところで、灰原くんに抑制剤飲んでくれ、なんてマトモに頼めもしないだろうし。

星屑くんはお人好し過ぎるからね。だから僕が代わりにこっそり教えに来たって訳さ」

 

はいこれと、鞄から抑制剤の束の入った紙袋を取り出し、渡した。

 

「きっかり20回分だ。一気に服用で君は雨宮先生のフェロモンから逃れられる。

星屑くんだけが好きだった頃の気持ちを思い出せるよ。まあどうするかは君に任せるけどね」

ボールは渡した。あとは灰原くんの判断を待つ。僕はそれじゃと背を向けた。

 

「・・何でひかりにそんなに協力的なんだよ!」

背中に一つ、言葉の矢が刺さった。焦ってるのかい。・・良い兆候だ。ニヤと口角が上がりかけるのを抑え込んだ。

「・・別に。星屑くんの歌声は良いなって思ってたからだよ。僕がピアノ伴奏してやれたら、って思ってた。それだけ!」

最後に本当のことを教えてあげて、僕は今度こそ場を後にした。

 

 

屋上を降りる前、ふと見上げた空は随分青くて綺麗だった。そっちで元気にやってるかい、綾人。

君に似た星屑くんを守ったら、事故から君を守れなかった罪滅ぼしが出来るかな、なんて。

甘いかな。

 

 

続く

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