『仕事お疲れ〜昼飯食いにちょっと出てこない?旨いもん食べに行こ』
翌日10時。めげずに暁都さんから来たメッセージに僕はすこしホッとしていた。
昨日は車出してもらってコスモス見に行って1日デートして、その癖そっけなかった僕に暁都さんは愛想つかしちゃったかな、なんて内心で心配していたから。
その気持ちに応える勇気はないけれど、でも好かれてはいたい最低な僕・・。
迷ったけど、行きますとだけ返信した。ランチくらいなら良いよね?
・・って思ったんだけど、それが大いなる間違いだったんだ。
『退路を塞ぐ男』
財布と携帯をお尻のポッケに差し込んで、僕は出かける準備を整えた。
12時頃、旅館前まで迎えに来た暁都さん。
昨日とはまた打って変わってカジュアルな服装だったが、それでも渋くてカッコ良かった。結局顔が良いってのが一番のお洒落なのかもしれない。平凡な僕には縁のない話だが・・。
何だか気後れしていたら、向こうからお疲れ〜と声を掛けられてそのまま捕まった。
僕が行ったことのない道を2人並んで歩き出す。何話したら良いか分からず、しどろもどろで切り出した。
「今日もお洒落なんですね」 「うん?そう?君もその白のニット良いじゃん俺好きだよそういうの」 「え、そうですか?」
パッと顔を上げた。センスの良い人に褒められると嬉しいな、なんて思ってたのに。
「まあ君が裸が一番だと思うけどね」 「・・もう!!」
ぺしんとその肩を打ってやった。ケラケラと暁都さんは笑った。
「何でそうセクハラばっかり言うんですか?黙ってれば只のイケメンなのに」
「男っていうしょうもねえ生き物だからだよ。好きな子にちょっかい出してないと死んじゃうんだよねえ俺」
「・・だっさ!!」
そう言い返してやった。日常会話に告白を混ぜ込んでくるのってイケメンの常套手段なんだろうか。
「まあまあ怒んないでよ」 軽い調子で彼は言い、続けた。
「今日旨い釜飯屋さん連れてくし俺の奢りだからさあ許してよ?そこ刺身もうまいし。ちょっと高めだから人も少なくて静かでさ、俺のおすすめだよ」
「お店でまた変なこと言ったら途中で帰りますからね?」
わあかったよおと残念そうに彼は言った。 さっきのお詫びにあんみつも付けることで合意した。
その後お店への行きの道中、やいやいと話し合ったものの、暁都さんは『僕に今後セクハラを言わない&しないこと』に関しては頑なに同意しなかった。
案内されたお店は和風の雰囲気の良いところだった。静かだし、落ち着くし、確かに良い場所だった。
ただメニューの値段みたらちょっと高いどころじゃなかったんで冷や汗でたけど・・!
僕自分で出しますから!と言ったら、俺に素直に奢られとけよと封じられてしまった。
申し訳ないがありがたく食事を頂いた。そして昼からビールまで飲んじゃった。彼が勧めてくるままに、そのまま冷酒も・・。午後仕事進むかなあ・・?なんてぼんやりした頭で思った。
他愛もない話で笑い合う。一緒にいるのはやっぱり楽しい人だ。カッコいいし、頭も良いし、僕も好ましくは思ってる。迷わず飛び込めたら、良いんだろうけれど・・。
ただ時折机の下で時折ちょっかい出してくるのは辞めて欲しかった。恥ずかしいから。
食事を終え、ご馳走様でしたと店を出て言うと彼は良いよと笑って答えた。
それじゃ・・と帰ろうとしたら、ちょっと待ってよと呼び止められる。
「最後に俺のお願い聞いてくんない?」
こんな高いもの奢られといて、イヤって言えなかった。
「俺ん家まで一緒に来て欲しいな。コーヒーふたりで飲みたいだけなんだよな〜」
「うわっずる!」
「良いだろお。それに君ちょっと酔い回ってるでしょ?少し休んだ方が効率良いんじゃない、仕事の納期迫ってるって昨日言ってたしさあ」
うっ自分のついた嘘に首を絞められる辛さよ・・!
何やかんやと言いくるめられ、結局僕は一緒に暁都さん家に行くことにした。『次は我慢しないよ』なんて言われてる人の家に。なんてことだ・・。
久しぶりに連れてこられた暁都さんの家。相変わらず綺麗に片付いていて、ほこりひとつ落ちていなかった。聞けばたまに業者の人呼んで掃除やってもらってるらしかった。だからかあと納得した。それにしてもお金余ってるんだなあ・・。
促されるままに、僕はキッチンで2人分のコーヒーを淹れる。機嫌よく後ろにくっついてきて邪魔する暁都さん。
「変なとこ触んないで・・っ!」 「良いじゃん海外のホームドラマとか大体こんな感じでしょ?カップルでやたらイチャイチャしてさあ。スゲーよね」 「ここ日本ですよお。あと僕らカップルじゃn」 「あ〜何も聞こえないな〜」
結局ずっとくっつかれたまま、何とかコーヒーを淹れ終えた。どうぞとテーブルに置き、向かい合って座った。
「良いねえ君。俺の奥さんみたいで」 「家政婦でしょ?」 「え、住み込みしてくれるの!?」 「しませんけど!?」
なんて軽口を叩いて見せたものの、2人っきりの家。なんか突然どうにかされたらどうしよう・・なんて警戒心が内心解けなかった。
だから早々にコーヒーを飲み終えて、僕は帰ろうとした。立ち上がると、え〜もう?と残念そうな暁都さん。
渋々玄関先まで見送りに来てくれたんだけれど。
それじゃと僕が扉を開けて帰ろうとしたら、呼び止められた。
「ね、これなーんだ?」
彼がひらひらと振ってみせたのは・・僕の財布、と携帯!?いつの間に・・キッチンか!
「か、返して!」
飛びつくと、彼は飛びのいてモノを宙にかかげてみせた。そして彼は、にやにやと家の奥までそれらを持って走って逃げて見せた。
「ちょっと!?」
雑に靴を脱いでまた家に上がった。彼に飛びついた。僕を片手で抱き止めて彼は言った。
「やだね返さない。君の決心つくまで俺ん家にいてよ」
「どういうこと!?」
「君さあ、俺と元彼でずっと迷ってるでしょ?俺待つの性に合わないんだよね。だからさ、俺と一緒にしばらく住もうよ?そうすれば君は俺に傾かざるを得ない」
「そんな・・っ」
言うや否や、僕をぽんとソファに押し倒しその足でどっか別の部屋に足速に駆けて行った。
待ってと追うと、戻ってきた彼にぶつかった。
「財布は金庫にしまってきた。これで帰れないね。・・ま、金のことで不自由はさせないからさ、安心してよ」
ニコと笑って彼は言った。絶句した僕。
「携帯はしばらく俺が預かる」
暁都さんがそういった丁度そのタイミングで、元彼から電話が掛かってきた。
来た、とばかりにニッと笑うと彼は勝手に電話に出た。
「もしもし?俺の恋人にもう電話して来んなよ?そんじゃな」
ブツリと電話を切った。ごめんねえと彼は言ったが、反省の色なんかまるで無かった。
退路を塞がれ、僕は冷や汗が背中を伝うのを感じていた。
続く
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