「葵!!葵!!!」
「・・!」
はっと目を覚ますと、目の前に亮がいた。すごく不安そうな顔。
ゲホゲホと咳き込んだ。芝生に突っ伏していたせいで、土埃が喉に入った。
ほら水、と亮がペットボトル渡してくれて背中をさすってくれた。
「葵、お前何があったんだよ!」
んぐんぐと水を飲む。カラカラに乾いていた喉。貪る様に飲んだ。
1本飲み切ったところで、ぷはと口を離した。
すごく不安そうに見つめる亮と目があった。
「・・も、学校辞めよかな・・」
『砦』
屋根下のベンチに座り、僕は全てを話した。聞き終えると亮は、ハアッと深くため息を吐いた。
「・・・」
亮は信じてくれるだろうか・・。
沈黙が居た堪れなくて、スニーカーの先についた芝を靴先で弄った。
何か言ってよ、亮・・。
「葵、お前さあ・・」
ー『そんな嘘ついて恥ずかしくないの?翼が可哀想だろ?』ー
そんな声がどこかから聞こえた気がした。亮もそう思ってる・・!?
は、ハアと呼吸が再度荒くなる。
「僕は・・嘘なんて・・!」
「おい!?葵、どうした!?落ち着けって!」
ぐらりと上体の倒れた僕を、亮が抱きとめた。そのパーカーに縋りついた。
必死に訴えた。
「嘘なんか・・!ついてない・・」
「分かってるよ!お前はそんな変な嘘ついたりしないって!!」
まっすぐな瞳とぶつかった。
「ほんと・・?」
「ああ」
信じて良いんだね、良かった・・
そう思うと、呼吸はすうっと軽くなっていった。ふう、ふうと息を整えた。
「ごめんね、亮にも疑われちゃったのかと思ったんだ・・」
「逆にそんなに俺信用ないのがショックだよ」
それでさ、と亮は身体ごと僕に向き直って話し始めた。改まって、どうしたんだろう。
「・・さっきの続きなんだけど。
お前さ、もう玲司と別れたら?」
「え・・」
つい涙ぐんでしまった。そんな、玲司と別れるなんて、考えたくない。
「だって玲司、お前のこと全然大事にしてないじゃん!訳のわからないヤバい幼馴染とお前を引き合わせて、辛い目に合わせて。それで何の盾にもならないんだろアイツ!」
うう・・ッ!事実だけど改めて聞くと辛かった。そうなんだよね、僕の立場って・・
「だからさ、もう玲司なんか翼にくれてやれよ!」
「や、やだああああ!」
「やだじゃない!!!!」
らしくなく亮にキレられて、ビクゥと縮こまった。
「良いからよく聞けよ。翼はお前が潰れてくとこが見たいんだろう?
お前、自分がさっそく潰れかかってるの自覚してる?
さっき気を失って倒れてたんだぞ?これが街中の・・道路とかだったら、どうする気・・ッ!」
ぐすっと鼻を啜った亮。え、泣いてる・・!?
パーカーの袖でぐいと目元を拭うと亮は続けた。
「翼もさ、お前が玲司と別れたと思えば、玲司に興味なくすって。
逆に玲司の側にいればいるほど、あることないこと吹き込まれるぞ。玲司は翼ばっかり信じるからな。
それなら玲司とは距離置くのが結局一番良いんだよ。それに玲司と会わなきゃ翼にも会わないで済むんだ。
その方が良いだろ?」
「う、うん・・」
一理あるけどさあ・・。
「だからさ葵・・玲司との家出て俺と暮らさないか?一緒に対処法考えてやるから。俺ならお前のこと、全部信じるし」
まっすぐ見つめられて迂闊にもドキッとしてしまった。親友に対して、僕はなんてことを・・
「な?」
「・・・」
「良いだろ、葵・・?」
確かに、翼には一生会いたくないし。
玲司と離れることで状況がマシになるなら、その方が良いのかな・・
「分かったよ」
「本当か!?」
ぴょんて跳ねるみたいに亮が言うのが、なんか可笑しかった。
大学生プロゲーマーで、大会で勝って賞金もらっても無反応な亮が。
・・一人暮らしが寂しかったのかな?
なんてその時は思ってたんだけど、全然僕の見立てが見当違いだったと後に気付かされることになる。
善は急げと言わんばかりに、僕はその日のうちに亮の家に転がり込むことになった。
玲司が大学の授業でいないうちに、必要な荷物だけサクッとまとめた。
二人でここに住み始めた時の感傷が蘇る。家具も食器も一緒に選んだんだよね・・あの日あの時の、僕と玲司の楽しくて幸せな様子が浮かんだ。
本当は出て行きたくないけれど。
でもきっと、すぐ戻って来れるよね・・信じてるよ玲司・・。
バタン、と閉じた玄関の扉が『もう二度と来るな』と言っている様に感じたのは気のせいだ、絶対。
後手になっちゃったけど、玲司には亮の家についてからLINEを入れた。
文面にめちゃくちゃ気を使い、震える手で送信した。
『少し距離を置きたくなりました。
しばらく亮の家にいます。
またね。葵』
重くない?やばくない?これで『あっそじゃあ別れよう』とかないよね・・?
送信ボタンを押した僕に、亮は不服そうに言った。
「文面が生ぬるいんだよ。もっとこう地獄の底にいるかのような文面をだな・・」
「こわいよそれ」
「・・あーっ!てか『またね』やっぱ入れてんじゃん!消せって言ったのに。なんでお前が歩み寄ってんだよ。
『もう一度会わせてください葵さま』って言うべきなのは玲司の方だろ。
こういう細かい文面から交渉は既に始まってんだよまったく・・」
ブツブツとボヤき、機嫌が悪い亮。
「まあまあ・・」
あははと苦笑いしたけど、内心すごく感謝していた。だから。
「世界一親友甲斐あるよね、亮は。本当ありがとね」
「・・ああ」
そっぽ向いて、亮はそれだけ言った。
何はともあれ。ひと仕事終わってふうと息をついた。ソファに頭をもたれさせた。
見渡した亮の家は、モノトーンカラーのシックな部屋だった。
男の一人暮らしにしては片付いてる。
ゲーミングチェアだのデスクだのがドーン!ってある以外は大体何もない。散らかってるのは嫌いだそうだ。
「あ、そういえばさ、葵。寝るとこなんだけど・・」
おっこれはもちろん心得ている。
「もちろん僕ソファで寝るよ!床でも良いし!」
「俺のとなり、は・・?」
「え・・」
続く
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よろしくお願いします♪
全部、亮くんの言うとおりですね!
玲司なんざ、翼にくれてやれー!
玲司には、いずれ逃がした魚は大きかった事を思い知ってほしいです。
そして亮くん、今がチャンス!葵くんを自分に振り向かせるのや!
葵くんなかなか自分で、玲司を思い切れなさそうだから、亮くんに頑張っていただくしか!
亮の説得とアタックにかかってますね!
良い奴キャラを脱却できるのか・・!?
前回が辛かったので、今回は葵くんだけでなく、読者も亮くんに癒されます…。
私は玲司が深く深く反省して葵くんを大切にできるなら復縁もあり派なのですが、でも葵くんだけでなく亮くんにも幸せにはなってもらいたいですね。作者様の思うままに。すごく楽しませてもらっています!
楽しんで頂けてるとのコメント、ほっとしました^^
ようやくまっとうな第三者・亮の介入があって私もホッとしてます(!?)
やだあああ!じゃないっ現実を見ろって・・・
身代わりにされてるわ蔑ろにされてるわ庇わないわ、付き合ってないよコレ。
ぜんっぜんっ大事にされてない、いい加減に目を覚ませって・・・
でもこの調子じゃドン底に落ちるまでクソ彼氏にしがみつきそうでキツイな・・・
亮の手に負えるだろうか・・・亮に期待してるけど、誰かまともな第三者も必要なんじゃないかな〜
なんだかんだでレイジ(何故か予測変換が出ない・・!)を振り切れない葵チャンです。
惚れた弱みですね・・
果たして第3者は出て来るのか・・?頑張れ亮!!